プロバイダー責任制限法が再び改正|SNSや掲示板運用事業者の影響
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令和6年(2024年)3月1日、プロバイダー責任制限法の改正法が閣議決定されました。今回の改正では、SNSや掲示板などにおいて誹謗中傷が横行している状況を踏まえて、一定規模以上のプロバイダー(サイト管理者)の義務が強化される見込みです。
SNSや掲示板を運用している事業者は、プロバイダー責任制限法の改正内容について情報収集を進めておきましょう。本コラムでは、令和6年中の成立が見込まれる改正プロバイダー責任制限法のポイントなどを、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
なお、「プロバイダー責任制限法」は「情報流通プラットフォーム対処法(情プラ法)」に名称が改められる見通しですが、本記事では「プロバイダー責任制限法」で表記を統一しております。
1、令和6年中の成立が見込まれる改正プロバイダー責任制限法|主なポイントを紹介
令和6年の通常国会に提出が予定される改正プロバイダー責任制限法については、総務省の有識者会議で検討が重ねられており、令和6年3月1日には、改正案が閣議決定されました。今後は、年内の成立に向け国会審議へと進む予定です。
意見募集の対象となった「誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応の在り方について」では、改正プロバイダー責任制限法のポイントとして、以下の2点が挙げられています。
参考:「プラットフォームサービスに関する研究会 誹謗中傷等の違法・有害情報への対策に関するワーキンググループ」(総務省)
参考:「誹謗中傷等の違法・有害情報に対するプラットフォーム事業者による対応の在り方について(意見募集)」(総務省)
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(1)コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保
1点目のポイントとして挙げられているのが、「コンテンツモデレーションに関する透明性・アカウンタビリティの確保」です。
「コンテンツモデレーション」とは、インターネット上の不適切なコンテンツを監視し、必要に応じて削除することを意味します。
現状では、コンテンツモデレーションは各サイト管理者の裁量的判断に委ねられており、ユーザーに対する透明性やアカウンタビリティ(説明責任)が十分確保されているとはいえません。
そこで改正プロバイダー責任制限法には、一定規模以上のサイト管理者に対して以下の事項を義務付ける改正などが盛り込まれる見込みです。- コンテンツモデレーションの運用方針(実施基準、実施手続き)の策定および公表
- コンテンツモデレーションの運用結果の公表
- コンテンツモデレーションの運用に関する自己評価および公表
- コンテンツモデレーションの実施に係る人的体制や育成状況の公表
- コンテンツモデレーションの迅速化に関する取組状況の公表
- 投稿時に再考や再検討を促す機能など、アーキテクチャ上の工夫による違法または有害な情報の被害低減に関する取組状況の公表
- コンテンツモデレーションの措置申請窓口の整備
- コンテンツモデレーションの実施または不実施に関する理由の説明
- コンテンツモデレーションに関する苦情に対する誠実な対応
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(2)プラットフォーム事業者が果たすべき積極的な役割
SNSや掲示板などのプラットフォームサービス上では、有害な情報がいったん送信・拡散されると、被害が即時かつ際限なく拡大し、甚大になりやすいという特徴があります。
プラットフォームサービスのサイト管理者(=プラットフォーム事業者)には、問題となる投稿の検知や削除に関して積極的な役割を果たすことが期待されます。その一方で、表現の自由を侵害しないようにバランスをとることにも留意しなければなりません。
改正プロバイダー責任制限法では、プラットフォーム事業者に積極的な役割を義務付けることに対して慎重な立場をとりつつも、以下の事項などを盛り込むことが検討されています。- 権利侵害情報の流通の網羅的なモニタリング
- 繰り返し多数の権利侵害情報を投稿するアカウントのモニタリング
- プラットフォーム事業者に対する削除請求権の明文化
- プラットフォーム事業者による権利侵害性の有無の判断の支援
- 行政庁からの削除要請を受けたプラットフォーム事業者の対応の明確化
- プラットフォーム事業者による削除等の義務付け
- 裁判外の請求への誠実な対応
2、プロバイダー責任制限法の概要|現行の規定内容を解説
プロバイダー責任制限法は、誹謗中傷など人の権利を侵害する投稿に対して、被害者の救済策を整備することを目的とした法律です。
現行のプロバイダー責任制限法では、主に以下の2つの制度が定められています。
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(1)権利侵害情報の削除に関するサイト管理者の責任制限
誹謗中傷等の権利侵害情報について、被害者から削除等の要請があった際には、サイト管理者が迅速に削除すべきです。
しかし、サイト管理者が投稿を削除した場合、投稿者に何らかの損害が生じることも想定されます。投稿者の損害について賠償責任を負うとすれば、サイト管理者は削除をちゅうちょしてしまうでしょう。
そこでプロバイダー責任制限法では、一定の条件を満たす場合には削除に関するサイト管理者の責任を制限し、問題のある権利侵害情報の速やかな削除を促しています(同法第3条第2項)。 -
(2)発信者情報の開示
インターネット上での投稿は匿名で行われるケースが多く、誹謗中傷等の被害者において投稿者を特定することは容易ではありません。
そこでプロバイダー責任制限法では「発信者情報開示請求」の制度を設け、サイト管理者やインターネット接続業者から、被害者が投稿者の情報の開示を受けられる仕組みを整えています。
令和4年10月には「発信者情報開示命令」の制度が新設され、従前よりもスムーズに発信者情報の開示を受けられるようになりました。
3、改正プロバイダー責任制限法に備えるSNS・掲示板運用事業者の留意事項
令和6年中に成立が見込まれる改正プロバイダー責任制限法は、成立すれば公布から1年以内に施行される予定です。
SNSや掲示板を運用する事業者としては、改正プロバイダー責任制限法への対応に関して、以下の事項に留意しておきましょう。
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(1)すべての事業者が対象となるわけではない|対象範囲を要確認
改正プロバイダー責任制限法によってコンテンツモデレーションに関する対応等を義務付けられるのは、一定規模以上の事業者に限られる予定です。したがって、小規模な事業者は対象外となる可能性が高いと考えられます。
具体的な適用範囲は未定なので、今後の法案審議の状況を注視する必要があります。SNSや掲示板の運用事業者は、自社が改正プロバイダー責任制限法の適用対象となるかどうかを確認しましょう。 -
(2)削除指針等が未整備の場合は、早急に整備を
改正プロバイダー責任制限法の対象となるか否かにかかわらず、コンテンツモデレーション(投稿の削除など)に関する透明性の確保や説明責任の履行については、SNSや掲示板の管理者に対する社会的な要求が強まることが予想されます。
特に、削除指針や削除請求フォームなどをまだ整備していない事業者は、早急に整備を進めましょう。 -
(3)モニタリング義務等に関する改正内容につき、引き続き注視
改正プロバイダー責任制限法が適用される事業者において、権利侵害情報のモニタリングや削除対応に関する義務がどこまで課されるかは、今後の法案審議に委ねられています。
改正プロバイダー責任制限法の対象となり得る事業者は、改正プロバイダー責任制限法に関する法案審議の状況を引き続き注視しましょう。
4、改正プロバイダー責任制限法への対応に悩むときは、顧問弁護士に相談を
SNSや掲示板のサイト管理者にとって、改正プロバイダー責任制限法をはじめとする法令への対応は必要不可欠です。コンプライアンスを徹底したサイト運営を行うことが、ユーザーからの信頼の確保に繋がります。
改正プロバイダー責任制限法その他の法令への対応につき、対処法について不安がある場合は顧問弁護士との契約をご検討ください。ベリーベスト法律事務所にはインターネットトラブルや誹謗中傷の解決実績がございます。初回相談60分は無料となっていますので、まずはお気軽にご相談ください。クライアント企業に合わせた適切な対応方針を、弁護士が丁寧にアドバイスいたします。
5、まとめ
令和6年の通常国会への提出が予定されている改正プロバイダー責任制限法が成立すれば、一定規模以上のSNSや掲示板を運用する事業者においては対応が求められます。今のうちから法案審議の状況を注視し、自社において必要な対応を検討しておきましょう。
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