再販売価格維持行為とは何か? 違反した場合、どうなる?

2023年09月26日
  • 一般企業法務
  • 再販売価格維持行為
再販売価格維持行為とは何か? 違反した場合、どうなる?

メーカーや卸売業者が小売事業者による販売価格の自由な決定を妨げて、定価での販売などを事実上強制する行為は「再販売価格維持行為」と呼ばれ、独占禁止法によって、原則的に違法とされています。

正当な理由のない再販売価格維持行為は、公正取引委員会による排除措置命令や課徴金納付命令の対象になります。さらに、損害を受けた事業者などから損害賠償を請求されるおそれもあるのです。メーカーや卸売業者は、独占禁止法の規制を遵守するように努めなければいけません。

本コラムでは、独占禁止法によって禁止される再販売価格維持行為の概要や、違反してしまった場合に問われる法的責任などについて、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。

1、再販売価格維持行為(再販売価格拘束)とは?

まず、「再販売価格維持行為」の概要について解説します。

  1. (1)再販売価格維持行為の要件・具体例

    再販売価格維持行為(再販売価格拘束)とは、供給先による自由な価格決定を拘束する条件を付けて商品を供給することを意味します。

    具体的には、以下のいずれかの条件を付けて商品を供給する行為が、再販売価格維持行為に該当するのです(独占禁止法第2条第9項第4号)。

    ① 商品の販売価格を定めてこれを維持させること、その他相手方による販売価格の自由な決定を拘束する条件。
    (例)
    家電メーカーが、「このテレビは必ず定価20万円で売らなければいけません」という条件を付して、家電量販店に対してテレビを販売する場合。
    →販売先の家電量販店による自由な価格決定を拘束しているため、家電メーカーによる再販売価格維持行為に当たる。

    ② 相手方が商品を販売する事業者による販売価格を定めて、当該事業者にこれを維持するように指示させること、その他相手方をして当該事業者による販売価格の自由な決定を拘束する条件。
    (例)
    ブランド牛の畜産農家が、「この牛肉をスーパーなどの小売店に卸すときは、必ず小売価格を100g当たり1500円以上とすることを義務付ける条件を付けなければなりません」という条件を付して、牛肉の卸売業者に対して牛肉を販売する場合。
    →販売先の卸売業者を通じて、小売店による自由な価格決定を拘束しているため、畜産農家による再販売価格維持行為に当たる。


    なお、単に「メーカー希望小売価格」などの非拘束的な用語を用いて参考価格を示しただけでは、原則として再販売価格維持行為に該当しません。

  2. (2)再販売価格維持行為は「不公正な取引方法」|独占禁止法により禁止

    正当な理由のない再販売価格維持行為は、「不公正な取引方法」として禁止されています(独占禁止法第2条第9項第4号、第19条)。

    再販売価格維持行為が原則禁止とされているのは、流通業者間の価格競争を妨害して、公正な競争を阻害する可能性が高い行為であるためです。
    「上流」の事業者が「下流」の事業者による価格決定を拘束することを許さず、自由競争による健全な取引を促進するために、再販売価格維持行為の原則禁止が定められています。

    なお、再販売価格維持行為に該当する行為であっても、正当な理由があり公正な競争を阻害するおそれがない場合には、独占禁止法で禁止される不公正な取引方法に該当しなくなります。
    具体的にはどのような場合に「正当な理由」があると見なされるかについては、後述します。

2、著作物は例外|再販売価格維持行為が認められる

特定の著作物については、例外的に、再販売価格維持行為は不公正な取引方法として禁止されないものとされています(独占禁止法第23条第4項)。

公正取引委員会の運用において、例外的に再販売価格維持制度(著作物再販制度)を認める著作物として取り扱われているのは、以下の6品目です。

  • 書籍
  • 雑誌
  • 新聞
  • レコード盤
  • 音楽用テープ
  • 音楽用CD


著作物について再販売価格維持行為が認められているのは、歴史的に定価販売の商慣行が確立していたことや、商品の性質から文化的価値が認められることなどが理由とされています。

このような理由で再販売価格維持行為を認めることの是非については議論があり、これまでにも法改正の議論がなされてきました。
しかし、現在のところ、著作物は再販売価格維持行為の禁止の例外と位置づけられているのです。

3、再販売価格維持行為に関する流通・取引慣行ガイドラインの改定内容

再販売価格維持行為は原則として禁止されていますが、正当な理由があれば例外的に不公正な取引方法に当たらず、適法に行うことができます。
具体的にはどのような場合に「正当な理由」があると見なされるかについては、公正取引委員会が定める「流通・取引慣行ガイドライン」に記載されています。

  1. (1)流通・取引慣行ガイドラインとは

    「流通・取引慣行ガイドライン」は、公正取引委員会が定める独占禁止法関連の指針で、正式名称を「流通・取引慣行に関する独占禁止法上の指針」といいます。

    流通・取引慣行ガイドラインは、独占禁止法に違反する競争阻害行為の内容を具体的に明らかにしたうえで、事業者による違反行為を未然に防止して、適切に活動を展開できるようにすることを目的としています。
    取引に関与する事業者は、流通・取引慣行ガイドラインを参照して、独占禁止法のルールを理解するように努めましょう。

  2. (2)再販売価格維持行為が認められる「正当な理由」の基準・具体例を明記

    平成27年3月30日に施行された流通・取引慣行ガイドラインの一部改正において、再販売価格維持行為をする「正当な理由」とは何かについての記述が追加されました。

    改正後の流通・取引慣行ガイドラインによれば、「正当な理由」は以下の要件を満たす場合に認められます。

    ① メーカーによる自社商品の再販売価格の拘束によって、実際に競争促進効果が生じてブランド間競争が促進されること

    ② ①によって当該商品の需要が増大し、消費者の利益の増進が図られること

    ③ 当該競争促進効果が、再販売価格の拘束以外の、より競争阻害的でない他の方法によっては生じ得ないものであること

    ④ 再販売価格の拘束が、必要な範囲および必要な期間に限られること


    流通・取引慣行ガイドラインでは、上記の要件を満たす場合の具体例として、再販売価格の拘束によって「フリーライダー問題」を解消できる場合が挙げられています。
    フリーライダー問題とは、自社が販売促進活動を行うことによって喚起した消費者需要に他の事業者が「タダ乗り(フリーライド)」してくる懸念がある場合などに発生します。
    このような懸念が業界全体に広がると、各流通事業者は、費用をかけて積極的な販売促進活動を行わなくなるでしょう。
    その結果、消費者需要を十分に喚起できず、流通事業者全体の売上が落ち込んでしまう可能性があります。

    フリーライダー問題が起きやすい条件の一つとして、(高額の販促費が上乗せされている)販売促進活動を行う事業者の販売価格と、(販促費の上乗せが小さい)それ以外の事業者の販売価格の差が大きいことが挙げられます。
    この場合、苦労して販売促進活動を行っても、他の事業者に顧客を取られてしまう可能性が高いので、結果的に販売促進活動は行われなくなるでしょう。

    再販売価格維持行為は、このような状況を改善する効果を発揮する場合があります。
    たとえば、商品の販売開始から一定期間に限り、定価での販売を義務付けたとしましょう。
    そうすると、事業者間で価格差がなくなるため、販売促進活動により認知を広げた事業者の売上が増える可能性が高くなります
    その結果、各事業者が販売促進活動において競争を繰り広げるようになり、消費者需要がいっそう喚起されることが期待できるのです。

    このように、フリーライダー問題を解消し得るなど、競争阻害効果ではなく競争促進効果が期待される場合には、再販売価格維持行為をする「正当な理由」があると見なされるのです。

4、再販売価格維持行為を疑われたらどうなる?

正当な理由のない再販売価格維持行為を行った場合、公正取引委員会による排除措置命令・課徴金納付命令の対象となります。
また、再販売価格維持行為によって損害を受けた事業者などに対する損害賠償責任を負う可能性もある点に注意してください。

  1. (1)排除措置命令を受ける

    正当な理由のない再販売価格維持行為をした事業者は、公正取引委員会により、当該行為の差止めや、関連する契約条項の削除などを含む排除措置命令を受ける可能性があります(独占禁止法第20条第1項)。

    排除措置命令は、取消訴訟の出訴期間である6か月間を経て確定します。
    確定した排除措置命令に違反した者には「2年以下の懲役または300万円以下の罰金」(同法第90条第3号)が科され、さらに法人にも「3億円以下の罰金」(同法第95条第1項第2号)が科される点に注意してください。

  2. (2)課徴金納付命令を受ける

    正当な理由のない再販売価格維持行為をした事業者は、公正取引委員会による課徴金納付命令を受ける可能性があります(独占禁止法第20条の5)。

    課徴金納付命令の対象となるのは、調査開始前10年以内に、再販売価格維持行為によって排除措置命令または課徴金納付命令を受けた事業者です
    つまり、初回の違反では課徴金納付命令の対象になりません。
    また、課徴金額は、違反行為期間における売上高の3%となります。

  3. (3)損害賠償責任を負う

    排除措置命令が確定した後、正当な理由のない再販売価格維持行為によって損害を受けた事業者は、違反事業者に対して損害賠償を請求できます(独占禁止法第25条、第26条第1項)。

    ただし、上記の損害賠償請求権には短期の消滅時効期間が設けられています(排除措置命令の確定から3年。同法第26条第2項)。

5、まとめ

再販売価格維持行為は、独占禁止法によって原則と禁止されています。
「正当な理由」がある場合は例外的に認められますが、かなり限定的であるため、行おうとしている行為が本当に「正当な理由」があるかどうかについては、法律の専門家に確認したほうがよいでしょう。
したがって、独占禁止法違反について心配な点がある場合には、弁護士に相談することをおすすめします。

再販売価格維持行為に関する規制など、独占禁止法についての質問や不安がある場合には、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
豊富な法律知識や企業法務の経験に基づきながら、弁護士が最適なアドバイスを行います。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています