病気で労災が認定される残業時間はどれぐらい? 発病と時間外労働の関係
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大阪労働局のデータによると、令和4年における大阪府内の労災(労働災害)の発生件数は2万2006件でした。
残業時間が長くなると、脳・心臓疾患や精神疾患の発病率が上がります。会社から長時間労働を強いられている方は、病気のリスクが高い状態にいるという点に注意してください。もし長時間労働が原因で病気にかかってしまったら、労災が認められる可能性があります。病気の治療をしつつ労災保険給付を請求するほか、会社に対して損害賠償を請求することも検討しましょう。
本コラムでは、時間外労働や発病の関係や、労働時間の危険水準について、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
1、労災認定時に労働時間が問題となる疾病
労働時間が長くなると、脳や心臓に関する疾患と精神疾患を発病する可能性が高まります。
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(1)脳・心臓疾患
脳や心臓に関する疾患で、労災が認定される可能性のあるものとしては、以下のような疾患があります。
① 脳血管疾患- 脳内出血(脳出血)
- くも膜下出血
- 脳梗塞
- 高血圧性脳症
② 虚血性心疾患等- 心筋梗塞
- 狭心症
- 心停止(心臓性突然死を含む)
- 重篤な心不全
- 大動脈解離
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(2)精神疾患
労災が認定される可能性のある精神疾患としては、国際疾病分類第10回修正版(ICD-10)第Ⅴ章「精神および行動の障害」に分類される精神障害のうち、器質性のものおよび有害物質に起因するものを除いた疾患となります。
具体的には、業務が原因で急性ストレス障害やうつ病などを発症した場合には、労災が認められる可能性があります。
2、労災認定で考慮される労働時間の「危険水準」
脳や心臓に関する疾患と精神疾患のいずれにおいても、労災認定基準には、発病との関連性が強まる長時間労働のライン(いわゆる「過労死ライン」)が明記されています。
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(1)脳・心臓疾患を生じやすい危険な労働時間
脳・心臓疾患については、以下のいずれかに該当する長時間労働が行われた場合には、業務と発症の強い関連性が認められます。
- 発病前1か月間に、おおむね100時間を超える時間外労働が行われた場合
- 発病前2~6か月間にわたって、1か月あたりおおむね80時間を超える時間外労働が行われた場合
また、上記の水準に達しなくても、発病前2~6か月間にわたって1か月あたりおおむね45時間を超える時間外労働が行われていた場合には、労働時間が長くなればなるほど、業務と発症の関連性が徐々に強まります。
なお、長時間労働だけでなく、その他の負荷要因によって脳・心臓疾患の発症リスクが高まることもあり得ます。
具体的には、以下のような業務が行われた場合、脳・心臓疾患の発症リスクが高まると考えられているのです。- 拘束時間が長い業務
- 出張の多い業務
- 勤務間のインターバルが短い業務
- 身体的負荷を伴う業務
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(2)精神疾患を生じやすい危険な労働時間
精神疾患については、以下のいずれかに該当する長時間労働が行われた場合には、業務と発症の強い関連性が認められます。
- 発病前1か月間に、160時間を超える時間外労働が行われた場合
- 発病前1か月未満の期間に、1か月あたり160時間超に相当する時間外労働が行われた場合(例:3週間にわたって120時間以上など)
- 発病前2か月間にわたって、1か月あたり120時間以上の時間外労働が行われた場合
- 発病前3か月間にわたって、1か月あたり100時間以上の時間外労働が行われた場合
- 1か月以上連続で勤務した場合
- 12日以上連続で勤務し、かつ連日深夜に及ぶ時間外労働が行われた場合
また、労働時間以外にも、過酷な業務内容や仕事上の事故、ハラスメントなどは、精神疾患の発症リスクを高める要因となります。
3、過労について労災認定がなされた場合に受けられる給付
毎月100時間前後の時間外労働が行われているような状況では、過労による労災発生のリスクが非常に高くなってしまいます。
ご自身やご家族がこのような状況に置かれた結果、脳・心臓疾患や精神疾患を発症した場合には、労働基準監督署に対して労災保険給付を請求しましょう。
以下では、受給できる主な労災保険の内容を解説します。
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(1)療養補償給付
「療養補償給付」は、労災にあたる疾病の治療に関する給付です。
労災病院または労災保険指定医療機関では、労災にあたる疾病の治療を無料で受けられます。
療養の給付については、医療機関の窓口で手続きを行いましょう。
労災病院や労災保険指定医療機関ではない医療機関で治療を受ける場合には、いったん治療費全額を立て替えなければなりません。
この場合には、後から労働基準監督署へ請求すれば、治療費全額の償還を受けることができます。 -
(2)休業補償給付
「休業補償給付」とは、労災にあたる疾病の治療のため仕事を休んだ場合に、その期間の賃金を補償するための給付です。
休業4日目から、1日につき平均賃金(給付基礎日額)の計80%が補償されます。 -
(3)障害補償給付
「障害補償給付」は、労災にあたる疾病が完治せず、後遺症が残った場合に行われる給付です。
労働基準監督署が認定する障害等級(第1級~第14級)に応じて、年金および一時金が受け取れます。
なお、「給付基礎日額」とは労働基準法上の平均賃金のことであり、「算定基礎日額」とは労災発生前1年間における、3か月を超える期間ごとに支払われる賃金の総額を当該期間の暦日数で割ったものとなります。障害等級 障害(補償)給付 障害特別支給金 障害特別年金 障害特別一時金 第1級 給付基礎日額の313日分 342万円 算定基礎日額の313日分 - 第2級 〃277日分 320万円 〃277日分 - 第3級 〃245日分 300万円 〃245日分 - 第4級 〃213日分 264万円 〃213日分 - 第5級 〃184日分 225万円 〃184日分 - 第6級 〃156日分 192万円 〃156日分 - 第7級 〃131日分 159万円 〃131日分 - 第8級 〃503日分 65万円 - 算定基礎日額の503日分 第9級 〃391日分 50万円 - 〃391日分 第10級 〃302日分 39万円 - 〃302日分 第11級 〃223日分 29万円 - 〃223日分 第12級 〃156日分 20万円 - 〃156日分 第13級 〃101日分 14万円 - 〃101日分 第14級 〃56日分 8万円 - 〃56日分 -
(4)その他の給付
上記のもの以外にも、労災からは以下のような給付を受け取ることができます。
① 遺族補償給付
被災労働者が亡くなった場合に、逸失利益の補償として遺族に支給されます。
② 葬祭料・葬祭給付
被災労働者が亡くなった場合に、葬儀費用の補償として遺族に支給されます。
③ 傷病補償給付
傷病等級第3級以上の疾病が1年6か月以上治らない場合に支給されます。
④ 介護補償給付
被災労働者が要介護となった場合に、将来の介護費用の補償として支給されます。
過労が原因で脳や心臓の疾患や精神疾患にかかった場合、複数の労災保険給付を受給できる可能性が高いといえます。
長時間労働によって受けた損害を少しでも多く補填するため、該当する給付は、もれなく請求するようにしましょう。
4、労災について会社に責任がある場合は、損害賠償請求が可能
労災保険給付は、被害者に生じた損害の全額を補填するものではありません。
また、精神的損害に対する補償(慰謝料)も支払われないため、被災労働者が負った損害に比べると、労災による補償は不十分なものであることが多いのです。
労災保険給付によって保障されない損害については、会社に対して損害賠償を請求できる可能性があります。
具体的には、会社が以下のいずれかの責任を負う場合には、被災労働者(または遺族)は会社に対して損害賠償を請求することができます。
会社が従業員の生命・身体等の安全に配慮する義務を怠り、その結果労災が発生した場合には、会社の安全配慮義務違反の責任を追及できます(労働契約法第5条)。
たとえば、会社が過酷な長時間労働を認識していながら、漫然と放置した場合には安全配慮義務違反にあたります。
② 使用者責任
他の従業員の故意または過失によって労災が発生した場合には、会社の使用者責任を追及できます(民法第715条第1項)。
たとえば、上司が部下に対して違法な長時間労働を命じていた場合には、上司本人の不法行為責任(民法第709条)に加えて、会社にも使用者責任が発生します。
会社に対して損害賠償を請求する際には、弁護士に代理人を依頼することができます。
5、まとめ
残業時間が長くなればなるほど、脳や心臓に関する疾患や精神疾患を発病するリスクは高まります。
もしご自身やご家族が会社から長時間労働を強いられた結果として疾病を発した場合には、労災保険の給付を請求するだけでなく、会社に対して損害賠償を請求することも検討しましょう。
損害賠償を請求する際には、弁護士に依頼することをおすすめします。
被災労働者やご家族の方は、まずはベリーベスト法律事務所にまでご連絡ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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