配置転換はパワハラになる? 企業が知っておくべき配置転換の注意点

2022年09月01日
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配置転換はパワハラになる? 企業が知っておくべき配置転換の注意点

令和4年4月中に、大阪労働局の総合労働相談コーナー等に寄せられた相談の件数は1万2573件で、うち256件がパワーハラスメント関係でした。

従業員の配置転換(人事異動)は、会社の判断で自由に行うことができると思われがちです。しかし、その目的・やり方などによっては、配置転換がパワハラに該当してしまう可能性もあります。会社としては、配置転換に関する従業員とのトラブルを防ぐため、十分なコミュニケーションと慎重な法的検討に努めましょう。

今回は、従業員の配置転換が会社側のパワハラにあたるケースや、配置転換に関するトラブルの予防・対処に関する会社側の注意点などを、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。

1、配置転換がパワハラになる可能性はあるのか?

従業員の配置転換は、会社の人事権の一環として行われますが、目的や方法によってはパワハラに該当することもあります。

  1. (1)パワハラの要件

    パワハラの要件は法律上で規定されています。

    具体的には、雇用管理上の措置などについて定めた労働施策推進法(正式名称「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」)第30条の2第1項において、パワハラの要件が3点挙げられているのです。

    第30条の2(雇用管理上の措置等)
    事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であつて、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。


    具体的には以下のとおりで、以下①から③のすべてを満たすものをパワハラと定義されています。

    ① 職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であること
    ※職場には、会社のオフィスや営業所などのほか、出張先も含まれます。
    ※上司対部下、集団対個人、専門性のある従業員対そうでない従業員の関係性など、抵抗できない可能性が高い関係性が「優越的な関係」にあたります。

    ② 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものであること
    ※業務上必要かつ相当な改善指導などは、パワハラに該当しません。

    ③ ①と②によって労働者の就業環境が害されること
    ※「就業環境が害される」かどうかは、一般的な労働者の感じ方を基準に判断されます。


    なお、労働施策推進法第30条の2以下で定められているとおり、従業員からパワハラがあったという相談があった場合、事業主は適切に対応するためにも必要な体制を整え、雇用管理上必要な措置を行う必要があります

  2. (2)パワハラ行為の6類型

    厚生労働大臣が定めた指針により、パワハラにあたる行為の典型例として、以下の6類型が挙げられています(参考:「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」)。

    1. ① 身体的な攻撃
    • 殴る
    • 蹴る
    • 物を投げる
    • など

    1. ② 精神的な攻撃
    • 人格否定(性的指向や性自認についての行動も含む)
    • 侮辱
    • 過度に長時間の叱責
    • 他の従業員が見ている前での叱責
    • など

    1. ③ 人間関係からの切り離し
    • 合理的な理由がなく別室隔離や自宅研修をさせること
    • 集団での無視
    • など

    1. ④ 過大な要求
    • 能力に比べて過酷すぎる業務命令
    • 明らかに必要性がない業務命令
    • など

    1. ⑤ 過小な要求
    • 能力に比べて簡単すぎる仕事しかを与えないこと
    • まったく仕事を与えないこと
    • など

    1. ⑥ 個の侵害
    • プライベートに関する必要以上の詮索や暴露
    • 職場外での継続的な監視
    • 私物の写真撮影
    • など
  3. (3)パワハラにあたる可能性がある配置転換

    配置転換は、人事権の範囲内かつ業務上の必要性・相当性が認められれば、パワハラには該当しません。

    しかし、たとえば以下のいずれかの要素を含む配置転換は、パワハラに該当する可能性があります。

    <パワハラにあたりうる配置転換の例>
    1. ① 精神的な攻撃
    • 配置転換の理由として、「無能だ」「成長の見込みがない」などの人格否定的な事柄を本人に通知した場合

    1. ② 人間関係からの切り離し
    • 他の従業員とのつながりを遮断して退職に追い込むため、いわゆる「追い出し部屋」に配置転換した場合

    1. ③ 過大な要求
    • 新入社員の自信を喪失させるため、あまりにも困難な業務を取り扱う部署へ配置転換した場合
    • 明らかに不要な業務しか取り扱っていない部署へ配置転換した場合

    1. ④ 過小な要求
    • コピー取りだけを担当するなど、簡単すぎる業務しか取り扱っていない部署へ配置転換した場合



    パワハラにあたる配置転換を行った場合、会社は対象の従業員に対して損害賠償責任を負います。

2、違法・無効になりうる配置転換とは

配置転換は、以下のケースにあたるとき、人事権の逸脱・濫用として違法・無効となる可能性があります。

  1. (1)労働契約書・就業規則で明記されていない場合

    会社による従業員の配置転換は、労働契約に基づいて行われます。

    労働契約の内容は、労働契約書や就業規則の記載に基づくことは周知のとおりです。
    したがって、これらの書面で配置転換があり得る旨が明記されていなければ、会社が従業員の配置転換を行うことはできません。

    また、個別の労働契約において配置転換の範囲が限定されている場合には(職種・転勤の有無など)、その範囲内でしか配置転換は認められません。

    労働契約書・就業規則の規定に違反して行われた配置転換は、違法・無効となりえます

  2. (2)配置転換が人事権の濫用にあたる場合

    労働契約に基づく人事権の範囲内であっても、不当な目的による場合や必要性がない場合には、配置転換が人事権の濫用として無効となることがあります(民法第1条第3項)。

    特に、配置転換がパワハラに該当する場合には、形式的には人事権の範囲内でも、権利濫用として無効とされる可能性が高いでしょう。

3、配置転換につき、従業員とのトラブルを防ぐための注意点

従業員との配置転換を巡るトラブルを防ぐため、会社としては、人事担当者などが中心となって以下の対応を徹底しましょう。

  1. (1)労働契約・就業規則上の法的な整理を行う

    違法・無効な配置転換を行うことがないように、労働契約上認められている配置転換の範囲を明確化する必要があります。

    実際に従業員の配置転換を行う際には、対象となる従業員と締結した労働契約書と、会社の就業規則を照らし合わせて確認し、契約上認められている配置転換であるかどうかをきちんと検討しましょう

  2. (2)入社時に、配置転換の範囲を明確に説明する

    従業員と労働契約を締結する際、会社は従業員に対して「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」を書面等で明示しなければなりません(労働基準法第15条、同法施行規則第5条)。

    「就業の場所及び従事すべき業務に関する事項」には、転勤先や配置転換があり得る業務の範囲なども含まれます。

    これらの事項を従業員に明示し、詳細について明確に説明しておくことは、配置転換に関するトラブルを避けるためにも重要です。

  3. (3)従業員と十分なコミュニケーションを取る

    無理やり配置転換を行うと、会社と従業員の間に軋轢が生じてしまうことは避けられません。そのため、実際に配置転換を行う際には、従業員の納得を得るプロセスも大切になります。

    従業員が納得して配置転換に応じるように、会社としては、配置転換の目的やその従業員が選ばれた理由(適任である理由)などを丁寧に説明しましょう

4、従業員に配置転換を拒否された場合の対処法

もし従業員に配置転換を拒否された場合、会社としては、まずできる限り円満な事態の収拾を図るのがセオリーです。

しかし状況によっては、配置転換を拒否した従業員の懲戒処分なども検討すべきでしょう。

  1. (1)別の従業員の配置転換を検討する

    配置転換を拒否した従業員にこだわらないのであれば、別の従業員を配置転換の対象とすることが考えられます。

    納得したうえで配置転換に応じる従業員のほうが、配置転換後の活躍を期待できるでしょう。

  2. (2)従業員の説得を試みる

    どうしてもその従業員を配置転換したい場合には、配置転換に応じるよう説得を試みるほかありません。

    たとえば、以下のような理由を挙げて、従業員が配置転換に応じる気になるように説得を試みてはいかがでしょうか。

    • 能力や経験を信頼しての抜擢である
    • 今後の成長のために役に立つ経験を積んでもらいたい
    • 給料が上がるなどのメリットがある
  3. (3)懲戒処分を検討するときは弁護士へご相談を

    配置転換について労働契約書に規定されている場合は、人事権の逸脱・濫用にあたる場合を除き、従業員は会社の配置転換命令(配転命令)に従う義務を負います。

    したがって、従業員が合理的な理由なく配置転換を拒否することは契約違反であり、会社による懲戒処分の対象となりえます。

    会社としては、普段の従業員の素行なども考慮して、配置転換の拒否が問題の大きな行動であると判断する場合には、従業員の懲戒処分も検討すべきでしょう。

    ただし、従業員の行為の性質・態様などに照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は、懲戒権の濫用として違法・無効となります(労働契約法第15条)

    どの程度の懲戒処分を課してよいかわからない場合には、必ず事前に弁護士へご相談ください。

5、まとめ

不当な目的による配置転換や、必要性のない配置転換は、対象従業員に対するパワハラに該当し、さらに人事権の逸脱・濫用として無効となる可能性があります。

配置転換を巡る従業員とのトラブルを防ぐには、労働契約上の人事権の範囲について法的な整理を行うことや、従業員との間で配置転換に関するコミュニケーションを十分に取ることなどが大切です

ベリーベスト法律事務所は、労務トラブルに関する企業経営者・担当者からのご相談を、いつでも受け付けております。従業員との間でトラブルをお抱えの企業経営者・担当者は、お早めにベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスへご相談ください。

また、継続した顧問契約をしているケースのほうが、ご事情をすでに共有されているため、スムーズに対応できる可能性が高いです。

ベリーベスト法律事務所では、リーズナブルな月額設定でご利用いただける顧問弁護士サービスを提供しています。企業を運営する場合、労務に限らず、法律に関係するトラブルは少なくありません。転ばぬ先の杖としてご活用ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています