タイムカード廃止で残業が増えた! 違法になりうるケースと対応法

2024年06月17日
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タイムカード廃止で残業が増えた! 違法になりうるケースと対応法

勤怠管理の方法としては、かつてはタイムカードによるものが主流でした。しかし、業務効率化のために紙媒体であるタイムカードからオンラインの勤怠管理システムに移行する企業も増えてきています。

このようなタイムカード廃止自体は、違法ではありませんが、タイムカード廃止により適切な勤怠管理や保管ができていない場合には、違法となる可能性もあります。「勤怠管理の方法が代わって、適正な残業代が支払われない」という方は注意が必要です。

今回は、タイムカード廃止が違法になりうるケースとその対処法について、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。

1、タイムカード廃止は違法?

タイムカード廃止は、違法ではないのでしょうか。

  1. (1)タイムカード廃止自体は違法ではない

    タイムカードとは、労働者の出退勤時間を把握するために用いられるツールのひとつです。日にちや時間を計測するタイムレコーダーにタイムカードと呼ばれる紙を差し込むことで、出退勤時刻が記録されますので、それにより会社は、労働者の勤怠管理を行うことができます。

    タイムカードを利用した勤怠管理は、多くの企業で取り入れられている方法ですが、勤怠管理の方法はタイムカードによるものに限られていません。そのため、適正な方法により勤怠管理が行われているのであれば、タイムカードの廃止が法律上問題になることはありません

  2. (2)会社がタイムカード廃止をする理由とは?

    近年、従来型のタイムカードによる勤怠管理から、オンラインのWEB勤怠管理システムに移行する企業も増えてきています。それには、主に以下のような理由があります。

    1. ① 業務の大幅な効率化
      タイムカードによる勤怠管理だと、タイムカードの回収、集計などに時間と手間が生じていました。しかし、WEB勤怠管理システムを利用すれば、タイムカードの回収の必要はなく、集計やチェック、分析などをすべて自動で行うことができます。これにより勤怠管理業務にかかる時間や手間を大幅に削減することができます。
    2. ② 管理コストの削減
      タイムカードは、紙媒体になりますので、多くの労働者をかかえる職場では、タイムカードの保管などに管理コストが生じていました。しかし、WEB勤怠管理システムであれば、データで管理することができますので、そのような管理コストを削減することができます。
    3. ③ 不正打刻を防止できる
      タイムカードだと、本人以外でも打刻することができますので、別の労働者にタイムカードの打刻を依頼するなどの不正打刻が生じることもあります。しかし、勤怠管理システムでは、生体認証やICカード、GPS(位置情報)などを用いることにより不正打刻・不正勤怠を防止することができます。

2、適切な勤怠管理をしていない場合は違法に!

タイムカード廃止自体は違法ではありませんが、適切な勤怠管理をしない場合には、違法となります。以下では、勤怠管理が違法になるケースについて説明します。

  1. (1)勤怠管理を行っていないケース

    労働安全衛生法では、労働者の勤怠管理を行うことが企業の義務であると定められています。

    同法では、以下のような方法で労働時間を把握することが求められています。

    • 労働者の始業時刻および終業時刻を自ら確認して、適正に記録すること
    • タイムカード、ICカード、PCの使用時間など客観的な記録に基づき確認を行い、適正に記録すること


    このように勤怠管理の方法は、タイムカードによる方法に限定されていませんが、タイムカード廃止を行い、それに代わる適正な勤怠管理方法を採用していない場合には、労働安全衛生法違反となります

  2. (2)使用者による残業記録の改ざんが行われているケース

    労働者による残業時間が長時間に及ぶと、会社が支払わなければならない残業代も多くなるため、人件費を削減するために、使用者による残業記録の改ざんが行われることがあります。

    しかし、残業記録の改ざんが行われると、労働時間を適正に把握できていないことになりますので、当然労働安全衛生法に反して、違法となります。

    また、残業記録の改ざんにより残業代の未払いが発生しますので、その点でも違法となり、使用者には、6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が科されます(労働基準法119条)。

  3. (3)勤怠記録を保管していないケース

    適正に労働時間を把握していたとしても、その結果を記録した勤怠記録を保管していない場合には、労働基準法違反となります。労働基準法109条では、タイムカードなど賃金に関する重要な書類を5年間保存しなければならないと定めています。

    タイムカードなどの紙媒体だけでなく、勤怠管理システムのデータについても5年間の保管が義務付けられていますので、途中で破棄した場合には違法となります。

3、自分の勤怠状況が確認できないときすべきこと

自分の勤怠状況が確認できないときは、以下のような対処法が考えられます。

  1. (1)労働基準監督署に相談

    労働者の労働時間を把握することは、会社の法的義務ですので、労働者が勤怠状況を確認できない状況だと、労働安全衛生法上の義務に違反している可能性があります。

    このような場合には、労働基準監督署に相談することで、違法状態が是正される可能性があります。労働基準監督署は、企業が労働基準法や労働安全衛生法などの法令を順守しているかどうかを監督する機関です。労働基準監督署は全国にあり、労働に関する相談であればどこでも利用できます。

    労働者から法令に違反している疑いがある旨の申告があった場合には、会社の立ち入り調査を行い、法令違反の有無の確認を行います。その結果、法令違反の事実が確認できた場合には、会社に対して、指導や是正勧告により、違法状態の解消が求められます。

    労働基準監督署による是正勧告に従わない場合には、刑事罰が科されるリスクもありますので、違法状態の解消が期待できます。

  2. (2)勤怠記録以外の方法で労働時間を証明する

    タイムカードで労働時間が正確に打刻されているのであれば、タイムカードを参照することで、自分の残業時間や未払い残業代の有無を判断することができます。

    しかし、自分の勤怠状況が確認できないということは、会社側でも労働者の正確な労働時間を把握していないということですので、残業をしても適正な残業代が支払われていない可能性があります。

    このような場合、以下のような方法で実際の残業時間を証明することができるのであれば、会社に対して残業代請求を行うことが可能です。

    • 業務日報
    • メールの受送信履歴
    • パソコンのログイン、ログアウト履歴
    • 職場の入退室記録
    • 警備記録


    残業代請求をする際の労働時間の立証は、労働者側で行わなければなりませんので、会社側で正確な勤怠状況を把握していない場合には、労働者の側でしっかりと記録を残していかなければなりません。

4、未払いの残業代があるときは弁護士に相談を!

未払い残業代がある場合には、すぐに弁護士に相談することをおすすめします。

  1. (1)残業代請求に必要な証拠をアドバイスしてもらえる

    タイムカードに正確に労働時間が記載されていれば、残業時間の立証に苦労はありませんが、実際には、タイムカード打刻後に残業が命じられるなどタイムカードの記載と実際の労働時間との間にズレが生じているケースも少なくありません。

    そのようなケースであっても、他の証拠によって実際の労働時間を立証できれば、残業代請求を行うことが可能です。どのような証拠が必要になるかは、事案によってケース・バイ・ケースですので、まずは弁護士に相談をして、必要となる証拠をアドバイスしてもらうとよいでしょう

  2. (2)複雑な残業代計算を任せることができる

    残業代を請求する前提として、まずは、どのくらいの未払い残業代が発生しているのかを計算しなければなりません。残業代の計算は、労働時間が時間外、深夜、休日のいずれに該当するかによって割増率が異なるなど非常に複雑な計算が必要になります。

    このような残業代計算を正確に行うためには、知識や経験が不可欠になりますので、弁護士に依頼するのがおすすめです。弁護士であれば、労働者に代わって、残業代計算を行うことができますので、迅速かつ正確に未払いとなっている残業代の金額を明らかにすることができます。

  3. (3)会社との交渉、労働審判、裁判などに対応できる

    残業代計算ができたら、次は、会社に対して未払い残業代を請求していきます。請求方法としては、まずは会社との話し合いにより解決を図ることになりますが、話し合いで解決が難しい場合には、労働審判や裁判などの手続きが必要になるケースもあります。

    弁護士であれば、会社との交渉、労働審判、裁判などを労働者の代理人として対応することができますので、労働者自身の負担を大幅に軽減することが可能です。労働基準監督署では、相談には応じてくれますが、実際の対応は労働者自身で行わなければなりませんので、自分で対応するのが難しいと感じる方は、早めに弁護士に相談するようにしましょう。

5、まとめ

タイムカード廃止自体は、違法ではありませんが、その結果、労働時間の適正な把握ができなくなっている場合には、違法となる可能性があります。また、適正な労働時間の把握ができていない会社では、未払いの残業代が発生している可能性もありますので、まずは弁護士に相談するのがおすすめです。

残業代請求権には時効がありますので、未払い残業代がある場合には、早めにベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスまでご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています