残業代には調整手当は含まれる? 基本給に含む手当・含まない手当
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2022年度に大阪府内の労働基準監督署が監督指導を行った1748事業場で、そのうち220もの事業場に賃金不払残業がありました。
賃金に含まれる手当のひとつに「調整手当」があります。これは柔軟な人事考課を行うことなどを目的として、基本給とは別に「調整手当」支給されるものですが、その性質によっては残業代計算の基礎に含めるべき場合があります。
残業代に調整手当が反映されていないと思われるときは、未払い残業代が発生している可能性があります。本記事では、調整手当と残業代の関係性や、残業代の計算方法などについてベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
出典:「長時間労働が疑われる事業場に対する令和4年度の監督指導結果を公表します」(大阪労働局)
1、調整手当とは?
「調整手当」とは、労働者(従業員)の給与額を調整するため、基本給とは別に支給される手当です。調整手当のルールは会社の意向によって決められます。そのため、基本給に比べて、増減が起きやすい傾向にあります。
会社が労働者に対して調整手当を支給するのは、たとえば以下のような場合です。幅広い目的で調整手当が支給されています。
- ① 採用直後の労働者の能力を見極めるため
採用直後の労働者については、基本給を抑える一方で調整手当を支給し、能力の高低に応じて柔軟に賃金を変動させられるようにするケースがあります。 - ② 人事考課に伴う賃金の減少幅を軽減するため
人事考課による降格等に伴って基本給が減額される労働者につき、極端な賃金減少によるモチベーションの低下を防ぐため、調整手当を支給して賃金の減少幅を抑えようとするケースがあります。 - ③ 能力の高い労働者に対して報いるため
年次などに比べて能力が高いものの、通常の賃金体系に従うと低賃金になってしまう労働者の賃金額を引き上げるため、調整手当が利用されることがあります。
など
2、調整手当は残業代の計算に含めるべきか?
残業をした労働者に対しては、「基礎賃金」を基準とした額の残業代を支払う必要があります。基礎賃金とは、会社によって定められた所定労働時間の労働に対して支払われる賃金です。
調整手当が基礎賃金(=残業代の計算基礎)に含まれるかどうかは、その調整手当の性質によって異なります。
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(1)残業代の計算に含まれる賃金・手当
労働者に対して支払われる賃金は、残業代(法定内残業手当・時間外手当・休日手当・深夜手当)を除いて、基礎賃金として残業代に反映されるのが原則です。
たとえば、以下のような賃金・手当は基礎賃金に当たり、残業代に反映されます。
- 基本給
- 能力給
- 出張手当
- 役職手当
- 地域手当
- 資格手当
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(2)残業代の計算に含まれない賃金・手当
残業代(残業手当)に当たる法定内残業手当・時間外手当・休日手当・深夜手当は、当然ながら残業代の基礎賃金に含まれません。
また、以下の手当については例外的に、残業代の基礎賃金に含めないものとされています(労働基準法第37条第5項、労働基準法施行規則第21条)。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金
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(3)残業代計算における調整手当の取り扱い
調整手当が残業代の基礎賃金に含まれるかどうかは、その調整手当の性質に応じて、前述したルールに従って決まります。
たとえば、基本給の調整を目的として支給される調整手当は、基本給と同質であるため、残業代の基礎賃金に含まれます。実質的な能力給として調整手当が支給されている場合も、基礎賃金に含まれることになります。
これに対して、調整手当が臨時的に支給されたものである場合や、賞与の一環として支給されている場合には、残業代の基礎賃金に含まれません。
調整手当の支給目的は多様であるため、残業代の基礎賃金に含まれるかどうかを適切に判断するためには、その性質をよく検討する必要があります。
3、労働者の残業代の計算方法
会社が労働者に対して支払うべき残業代の金額は、以下の手順で計算します。
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(1)1時間当たりの基礎賃金を求める
前述のルールに従って集計した基礎賃金額と月平均所定労働時間を用いて、以下の式によって1時間当たりの基礎賃金を計算します。
1時間当たりの基礎賃金=基礎賃金÷月平均所定労働時間
(例)- 基本給:30万円
- 調整手当:6万円
- 通勤手当:2万円
- 住宅手当:3万円
月平均所定労働時間:150時間
基礎賃金は36万円(基本給と調整手当の合計額。通勤手当と住宅手当は含まれない)
1時間当たりの基礎賃金
=36万円÷150時間
=2400円 -
(2)残業時間を集計する
残業時間は、法定内残業・時間外労働・休日労働・深夜労働に区分して集計します。
(a)法定内残業
所定労働時間を超え、法定労働時間を超えない部分の残業時間です。
※所定労働時間:労働契約や就業規則で定められた労働時間です。
※法定労働時間:労働基準法によって定められた労働時間の上限です。原則として1日当たり8時間、1週間当たり40時間とされています(同法第32条)。
(b)時間外労働
法定労働時間を超える部分の残業時間です。
(c)休日労働
法定休日における労働時間です。
※法定休日:労働基準法によって付与が義務付けられた休日です。1週間のうち1日、または4週間を通じて4日付与する必要があります(同法第35条)。
1週間に複数の休日がある場合には、就業規則などの定めがあればそれに従い、定めがなければ期間中もっとも後ろに位置する休日が法定休日となります。
なお、法定休日ではない休日に行われた労働は、法定内残業または時間外労働に当たり得ます。
(d)深夜労働
午後10時から午前5時までの労働時間です。法定内残業、時間外労働または休日労働と重複して該当することもあります。
(例)- 法定内残業:10時間
- 時間外労働:35時間(うち深夜労働3時間)
- 休日労働:10時間(うち深夜労働3時間)
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(3)残業代の額を計算する
1時間当たりの基礎賃金と各残業時間が分かったら、それらを用いて残業代の額を計算します。
残業代=1時間当たりの基礎賃金×割増賃金率×残業時間数
割増賃金率は、残業の種類に応じて以下のとおりです。
法定内残業 割増なし 時間外労働 25%以上
※月60時間を超える時間外労働については50%以上休日労働 35%以上 深夜労働 25%以上 時間外労働かつ深夜労働 50%以上
※月60時間を超える時間外労働については75%以上休日労働かつ深夜労働 60%以上
(例)
1時間当たりの基礎賃金:2400円- 法定内残業:10時間
- 時間外労働:35時間(うち深夜労働3時間)
- 休日労働:10時間(うち深夜労働3時間)
(a)法定内残業の残業代
=2400円×10時間
=2万4000円
(b)時間外労働(深夜労働を除く)の残業代
=2400円×125%×32時間
=9万6000円
(c)時間外労働(深夜労働のみ)の残業代
=2400円×150%×3時間
=1万800円
(d)休日労働(深夜労働を除く)の残業代
=2400円×135%×7時間
=2万2680円
(e)休日労働(深夜労働のみ)の残業代
=2400円×160%×3時間
=1万1520円
残業代の合計額
=(a)+(b)+(c)+(d)+(e)
=16万5000円
4、未払い残業代の請求は弁護士に相談を
会社から適正額の残業代が支払われていない場合は、会社に対して未払い残業代請求を行いましょう。未払い残業代請求に当たっては、弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
弁護士は、未払い残業代請求の際に重要となる、残業の証拠収集の方法について具体的にアドバイスします。さらに、未払い残業代の額を正しく計算した上で、会社に対して全額の支払いを求めます。
会社との交渉や、労働審判・訴訟などの法的手続きについても、弁護士が全面的に代行するため、労働者ご本人の負担は大きく軽減されるでしょう。また、弁護士が法的根拠に基づく請求を行うことで、適正額の未払い残業代を回収できる可能性が高まります。
残業代を受け取ることは労働者の権利であり、それをないがしろにする会社に対して泣き寝入りすべきではありません。ベリーベスト法律事務所
天王寺オフィスでは、賃金不払いをはじめ、労働トラブルに関するご相談を受け付けております。支払われている残業代が少ないのではと感じている労働者の方は、まずはお気軽にご相談ください。
5、まとめ
調整手当は、労働者の賃金の調整を目的として、基本給とは別に支給されることがあります。
会社が労働者に対して支払うべき残業代を計算する際、調整手当をその基礎に含めるべきかどうかは、調整手当の性質によって異なります。基本給や能力給などと同質であれば、調整手当は残業代の基礎賃金に含まれます。これに対して、臨時的な支給である場合や賞与の一環である場合などには、調整手当は残業代の基礎賃金に含まれません。
いずれにしても、調整手当の性質を具体的に検討して判断する必要がありますので、弁護士のアドバイスを受けましょう。ベリーベスト法律事務所
天王寺オフィスの弁護士が、残業の証拠収集の方法に関するアドバイス、正しい残業代の計算、会社との交渉や法的手続きの代行などを通じて、適正額の残業代を回収できるようにサポートいたします。
会社から支払われている残業代が少ないのではないかと疑問を感じている方や、残業代のルールについて分からないことがある方は、ベリーベスト法律事務所にご相談ください。
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