無断欠勤の始末書を提出させる手順は? 拒否された際の対処法も解説
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令和5年度、大阪府内の総合労働相談コーナーに寄せられた労働に関する相談は15万1560件でした。総合労働相談コーナーでは、事業主からの相談も寄せられています。
企業側の労働問題として、従業員(社員)の無断欠勤についてのお悩みをお持ちの方もいるでしょう。再発防止のため、始末書を提出させることも手段となります。しかし、始末書の作成を拒否される可能性もあるため、提出させる際には指示の出し方などをよく確認しておくべきです。
本記事では、無断欠勤をした従業員に始末書を提出させる際の手順や、始末書の提出を拒否された場合の対応などを、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
出典:「個別労働紛争解決制度等の運用状況 令和5年度の運用状況について」(大阪労働局)
1、無断欠勤をした従業員には、始末書を書かせるべき?
無断欠勤をした従業員に反省を促すためには、始末書を書かせるのが一案です。以下では、そもそもの始末書の定義や、始末書の効果などについて紹介します。
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(1)始末書とは
「始末書」とは、業務上のミスやトラブル、不祥事などを起こした従業員が作成し、会社に対して提出する文書です。「反省文」と呼ばれることもあります。
従業員に反省を促し、再発防止を誓わせたいときに、始末書の提出を指示するケースがあります。 -
(2)始末書と顛末書の違い
始末書と同じく、ミス・トラブル・不祥事などに関与した従業員に提出させる書面として「顛末書(てんまつしょ)」があります。
顛末書には、発生した問題の経緯や原因、解決策や再発防止策などを記載するのが一般的です。
始末書の主な目的は、従業員の反省を促すことですが、顛末書は情報共有や再発防止などに力点が置かれているといった違いがあります。 -
(3)従業員に始末書を書かせることの効果
始末書を書かせることにより、従業員には反省の機会が与えられます。問題の経緯を見つめ直すなかで、自らの不適切な行動を振り返り、今後二度と同じミスを繰り返さないと決意するきっかけになり得るでしょう。
無断欠勤についても、始末書を書かせることにより、ほかの従業員にどれだけ迷惑をかけたのか、二度と無断欠勤をしないようにするためにはどうすべきなどを考える良い機会になります。
ただし、始末書の提出をきっかけに心から反省するかどうかは、従業員の性格によって異なります。
もともと会社の指示を素直に聞かないような性格の従業員は、始末書の提出についても嫌々対応するだけで、心から反省することは期待できないかもしれません。
もっとも、従業員に対して注意指導を行ったという事実を記録しておくという点では、やはり、始末書の提出をうながしたほうがよいでしょう。
2、無断欠勤をした従業員に始末書を書かせる手順
無断欠勤をした従業員に始末書を書かせる際には、以下の手順で対応しましょう。
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(1)始末書を書かせる意義や根拠を伝える
始末書は、単なるペナルティーではなく、従業員に反省を促す目的で提出させるべきです。
従業員に対して、無断欠勤によって具体的にどんな迷惑がかかったのか説明し、反省の思いを表してほしい旨を真摯(しんし)に伝えましょう。
また、始末書を提出しなければならないことを従業員に理解させるためには、その指示の根拠を示すことも大切です。
後述するように、始末書の提出指示は、懲戒処分として行う場合と業務命令として行う場合の2通りがあります。
何を根拠として始末書の提出を指示するのかを、従業員に対して明確に伝えましょう。 -
(2)始末書に記載すべき内容・提出形式・期日などを指示する
始末書に記載すべき内容は、従業員の判断に任せることも考えられます。
しかし、無断欠勤をするような従業員は、その能力や仕事に対する姿勢が信用に値しないケースも少なくありません。始末書を書くことだけを指示すると、従業員は目的を十分に理解できず、会社が求める内容を記載しないで提出することもあるでしょう。そのため、始末書に記載すべき内容についても、会社側がある程度具体的に指示することをおすすめします。
無断欠勤の始末書に記載すべき主な事項は、以下のとおりです。従業員に対し、以下の内容を記載すべき旨を伝えてください。- 無断欠勤をしたことについての謝罪
- 無断欠勤の原因と、それに対する反省
- 無断欠勤によって迷惑をかけた他の従業員に対して、どのような対応をしたか
- 二度と無断欠勤をしないようにするため、これから取り組むこと
また、始末書の提出形式(書面、Word、PDFなど)や提出期限についても、従業員に対して明確に指示しましょう。
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(3)提出された始末書の内容を確認し、必要に応じて修正させる
従業員から始末書を受け取ったら、十分に反省しているかどうか、無断欠勤の問題点をきちんと理解しているかどうかなどを確認しましょう。
始末書の内容が不十分または不適切である場合は、従業員が無断欠勤による迷惑について理解できていない可能性があります。何が問題であるのかを指摘して、修正のうえ再提出するよう指示しましょう。
お問い合わせください。
3、始末書の提出を拒否されたらどうすべき?
従業員に対して始末書の提出を指示しても、拒否される可能性があります。
そのため、従業員に拒否された際に備えて、始末書の提出を求める根拠をあらかじめ明確化しておくことが大切です。
根拠を説明しても始末書の提出を拒否する従業員に対しては、懲戒処分を検討しましょう。
もっとも、反省の強制は思想・良心の自由に抵触する可能性があります。始末書の提出拒否を理由に懲戒処分を行うのであれば、求める始末書の内容は、非違行為を報告させることにとどめておいたほうが良いでしょう。
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(1)懲戒規程の根拠があれば、始末書の提出を強制できる
強制的に始末書を提出させたい場合、懲戒処分として提出を命ずることも選択肢になります。
たとえば、従業員に対して厳重注意を行う「戒告」や「けん責」の懲戒処分には、その内容として始末書の提出が含まれているケースがあります。
従業員に対し、懲戒処分として始末書の提出を指示するには、就業規則上の懲戒規程の根拠がなければなりません。具体的には、以下の2つの要件を満たす必要があります。- 始末書の提出を内容とする戒告やけん責などの懲戒処分が、就業規則に定められていること
- 従業員の行為が就業規則上の懲戒事由に該当すること
また、懲戒権の濫用に当たらないように注意することも大切です。
従業員の行為の性質や態様を考慮して、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当と認められない懲戒処分は無効となります(労働契約法第15条)。
従業員の無断欠勤が何度も続いている場合は、戒告やけん責などによって始末書の提出を命じることに大きな問題はないでしょう。
しかし、一度限りの無断欠勤を理由に戒告やけん責などを行う場合は、懲戒権の濫用に当たらないかどうかを慎重に検討すべきです。 -
(2)業務命令として始末書の提出を強制できる場合もある
業務上の必要性と合理性が認められれば、業務命令として従業員に始末書の提出を義務付けることができます。
無断欠勤が不適切な行為であることは間違いありません。そのため、反省を促す目的で始末書を提出させることは、必要性が認められる可能性が高いでしょう。
ただし、指示の内容によっては、合理性が否定されるおそれがある点に注意しなければなりません。
たとえば、あまりにも文字量の多い始末書の提出を命じたり、従業員自身を卑下する言葉を使うよう強制したりすると、始末書の提出を指示する業務命令が違法と判断されるリスクが高まります。
4、労務管理について弁護士へ相談するメリット
従業員の問題行動への対処に悩んでいる場合は、弁護士に相談することをおすすめします。従業員の労務管理について弁護士に依頼することで、以下のようなメリットを受けることが可能です。
- 始末書の提出指示など、従業員への対応に違法性がないかどうかを確認できる
- 従業員とのトラブルが生じた場合に、和解交渉や裁判手続きの対応が可能
- 労働環境に問題がないかどうか調査するなど、従業員とのトラブルを予防する方法について、アドバイスできる
弁護士と協力して労務管理体制を構築すれば、従業員とのトラブルのリスクを抑えられます。問題行動を繰り返す従業員にお悩みの際は、弁護士にご相談ください。
5、まとめ
無断欠勤をした従業員に対しては、反省を促すために始末書の提出を指示することが考えられます。ただし、始末書の提出を拒否されることもあるため、あらかじめ提出指示の根拠を明確化しておきましょう。
従業員との間でトラブルが発生した場合の対応については、弁護士のアドバイスを受けることをおすすめします。ベリーベスト法律事務所は、労務管理に関する企業のご相談を随時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています