「著作者人格権を行使しない」とはどんな意味? 弁護士が解説

2024年12月05日
  • 商標・特許・知的財産
  • 著作者人格権を行使しない
「著作者人格権を行使しない」とはどんな意味? 弁護士が解説

著作物を制作する業務委託契約や、著作権の譲渡契約などにおいては、「著作者人格権を行使しない」旨の条項(=著作者人格権の不行使条項)が定められることがあります。

「大阪市統計書(令和5年版)」によると、令和4年に大阪地方裁判所および大阪簡易裁判所が受理した民事事件は6万4640件でした。なかには著作者人格権を侵害されたとして、裁判所へ提起された方も少なからずおられるでしょう。

本記事では、著作者人格権の不行使条項の概要、著作者人格権に関するトラブル事例、トラブルを予防するための注意点などをベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。

1、「著作者人格権を行使しない」とはどういう意味か?

著作物に関連する契約では、「著作者人格権を行使しない」旨の条項(=著作者人格権の不行使条項)が定められることがあります。

まずは著作者人格権の概要と、著作者人格権の不行使条項の意義を確認しておきましょう。

  1. (1)著作者人格権とは

    「著作者人格権」とは、著作者の人格的な利益を保護する権利です著作物を独占的に利用できる「著作財産権」と併せて「著作権」と総称されます

    なお、単に「著作権」と言う場合には、著作財産権のみを指すことも多いです。本記事でも、単に「著作権」と言う場合は著作財産権を意味し、著作者人格権と区別するものとします。

    著作者人格権には、「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」という3つの権利が含まれています。

    ① 公表権(著作権法第18条)
    まだ公表されていない著作物(著作者の同意を得ずに公表されたものを含みます。)を公衆に提供し、または提示する権利です。

    ② 氏名表示権(同法第19条)
    著作物の原作品(オリジナル)に、または著作物の公衆への提供・提示に際し、自らの実名もしくは変名を著作者名として表示し、または著作者名を表示しないこととする権利です。

    ③ 同一性保持権(同法第20条)
    著作物およびその題号の同一性を保持し、意に反する変更・切除その他の改変を受けない権利です。


    著作者人格権は、著作者の一身に専属し、譲渡できないものとされています(同法第59条)。
    これに対して、著作権(著作財産権)は譲渡することができます(同法第61条第1項)。

  2. (2)著作者人格権の不行使条項とは

    著作者人格権の不行使条項とは、契約の相手方に対して著作者人格権を行使しない旨を、著作者が約束する条項です。

    たとえば原稿を作成し、契約の相手方に著作権を譲渡したとしても、著作者人格権は譲渡できないので、著作者人格権が著作者に残ります。

    すると著作権譲渡後も、著作者が著作者人格権を自由に行使する可能性があり、契約の相手方としては、著作物の利用に支障が生じてしまうおそれがあります。

    このような懸念を解消するため、契約において著作者人格権の不行使条項を定め、著作者による著作者人格権の行使を制限することが実務上よく行われています。

    不行使条項に反して著作者人格権を行使したとしても、不行使条項が公序良俗(民法第90条)に反するなど特段の事情がない限り、その権利行使は無効となる可能性が高いです。また、不行使条項に反する著作者人格権は契約違反に該当し、契約の解除や損害賠償請求の対象になり得ます

  3. (3)著作者人格権の不行使条項が定められる契約の例

    著作者人格権の不行使条項は、著作者が相手方に対して著作権を譲渡するか、または利用権(ライセンス)を設定する内容の契約に定められることが多いです。

    (例)
    • 著作権譲渡契約
    • 著作物の制作委託を内容とする業務委託契約
    • 著作権ライセンス契約
    など

2、著作者人格権の侵害が問題となるケース

実際に著作者人格権の侵害が問題となった裁判例や、その他のよくある著作者人格権の侵害例を紹介します。

  1. (1)著作者人格権の侵害が問題となった裁判例

    東京地裁令和4年4月15日判決の事案。原告の著作物である写真を被告がトリミングした上で、原告の氏名を表示することなくSNSに投稿したことにより、原告は、著作者人格権である同一性保持権および氏名表示権の侵害を理由として、不法行為に基づく損害賠償を求めて提訴しました。

    東京地裁は、元の写真が横長の構図で撮影された点に創作性を認めた上で、それを正方形の形でトリミングした点が創作性の認められる表現部分への実質的な改変であると判示し、同一性保持権の侵害を認定しました。

    なお、元の写真には原告の氏名が記載されていませんでした。しかし東京地裁は、元の写真に氏名が表示されていないとしても、原告が自身の氏名を著作者名として表示しない意思を有していたとは認められないと判示し、氏名表示権の侵害も認定しました。

    結論として、東京地裁は被告に対し、精神的損害に対する慰謝料として20万円、弁護士費用として4万円の合計24万円と遅延損害金の支払いを命じました

  2. (2)よくある著作者人格権の侵害例

    著作者人格権の侵害に当たるものとしては、一例として以下の行為が挙げられます。

    ① 公表権の侵害
    • プライベートで未公表作品を見せてもらった著作者の知人が、その著作物を撮影した写真を、著作者の承諾を得ずにインターネット上へアップロードした。
    • 未公表作品を預かっていた出版社やメディア運営者が、著作者の承諾を得ずにその著作物を公表した。

    ② 氏名表示権の侵害
    • 著作物である写真や画像を、著作者に無断でインターネット上に転載し、その際に著作者名を表示しなかった。
    ※著作権者の許諾を得ていない場合には、氏名表示権の侵害に加えて、公衆送信権(著作権法第23条)の侵害(=著作権侵害)にも該当します。

    ③ 同一性保持権の侵害
    • 著作者の承諾を得ずに、漫画に出てくるキャラクターの容姿や性格を改変したパロディー作品を制作し、公表した。
    ※著作権者の許諾を得ていない場合には、同一性保持権の侵害に加えて、翻案権(同法第27条)の侵害(=著作権侵害)にも該当します。

3、著作者人格権のトラブルを予防するための契約上の注意点

著作者人格権に関するトラブルを予防するためには、著作権の譲渡や利用許諾等に関する契約において、以下の事項につき確認および手当を行いましょう。



  1. (1)著作者人格権の取り扱いを当事者間で事前に確認する

    著作権に関する契約を締結するに当たっては、著作権(著作財産権)だけでなく、著作者人格権の取り扱いについても当事者間で事前に確認すべきです。

    前述のとおり、著作者人格権には「公表権」「氏名表示権」「同一性保持権」の3つがあります。

    著作権の譲渡・利用許諾を受ける側が著作物を公表するに当たっては、公表権や氏名表示権の処理が必要になります。

    公表の時期や方法、著作者名の表示などについて、著作者と相手方の間で認識を共有しておきましょうこれらの事項が確定したら、書面にまとめて著作者の署名捺印等を受けるのが安心です

    また、著作物の改変(編集など)を予定している場合は、同一性保持権の処理も必要になります。想定される改変の内容について認識を共有するとともに、大幅な改変については著作者の確認を受けるなどの対応についても取り決めておきましょう。

  2. (2)著作者人格権の不行使条項を定める

    契約書において著作者人格権の不行使条項を定めると、著作者人格権に関するトラブルのリスクを低減できます。

    特に著作権の譲渡や利用許諾を受ける側(譲受人・ライセンシー・発注者など)としては、円滑な著作物利用の観点から、著作者人格権の不行使条項を定めておくことが望ましいでしょう

    一方、著作者(作者・制作会社など)の側としては、著作者人格権の不行使条項を定めることにより、意に反する著作物の公表や改変がなされてしまうリスクに注意が必要です。

    公表や改変に関して何らかの希望がある場合には、著作者人格権の不行使条項を削除するか、または不行使の範囲を限定するなどの対応について、契約締結前に相手方と協議しましょう。

4、著作権以外の知的財産権の侵害にも要注意

著作者人格権のほかにも、特許権・実用新案権・意匠権・商標権などの知的財産権が認められています。

先行する他社の知的財産権の存在を見落としたり、他社の商品等を模倣したりすると、知的財産権侵害の責任を問われるおそれがあるので注意が必要です。

知的財産権侵害のリスクを防ぐには、顧問弁護士と契約することをおすすめします。知的財産権侵害に関する疑問やトラブルが生じた場合に、法律上の論点や適切な対処法などをスムーズに質問できるので安心です。

5、まとめ

著作権・著作者人格権を含めて、知的財産権に関するトラブルを予防するためには、弁護士へ継続的にご相談いただくのが安心です。顧問弁護士と契約すれば、知的財産権の取り扱いや注意点などについて、いつでもスムーズにアドバイスを受けられます。

ベリーベスト法律事務所は、知的財産権に関するご相談を随時受け付けております。月3980円からの顧問弁護士サービスもご用意しており、企業さまのニーズに応じて柔軟にご利用いただけます。

知的財産権による保護を万全にしたいコンテンツ制作者の方や、知的財産に関するコンプライアンスを強化したい事業者の方は、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスにご相談ください。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています