財産分与に遅延損害金は求められる? 支払いが遅れた場合に備えた対応法

2023年04月24日
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財産分与に遅延損害金は求められる? 支払いが遅れた場合に備えた対応法

大阪市が公表している統計資料によると、令和2年の大阪市天王寺区における離婚件数は、154件、阿倍野区は177件でした。同年の全国の離婚率が1.57であったことからすると、いずれの区においても離婚率が高い水準だったことがわかります。

離婚した場合、財産分与など金銭のやりとりが発生することが多いものです。しかし、取り決めたお金の支払いがいつまでも行われないという事態が起こることがあります。

一般的に、約束した期限までにお金の支払いがなかった場合には、遅延損害金が請求されることがありますが、財産分与でも遅延損害金を求めることはできるのでしょうか。

本コラムでは、財産分与に遅延損害金が発生するのか、発生する場合にはどのように計算するのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。

1、財産分与に遅延損害金は発生する?

財産分与に遅延損害金は発生するのでしょうか。以下では、遅延損害金の基本と財産分与との関係について説明します。

  1. (1)遅延損害金とは

    遅延損害金とは、金銭債務について、債務者が期限までに債務の履行をしなかった場合の損害を賠償するために支払われるお金のことをいいます

    元本に対する一定の利率によって計算されるお金であることから「遅延利息」とも呼ばれることもありますが、利息とは異なり支払いが遅れたことに対するペナルティーとして課されるお金です。

    たとえば、以下のような内容で売買契約が締結されたとします。

    • 商品代金:100万円
    • 支払期限:令和4年4月1日
    • 遅延損害金の利率:年10%


    買主が支払期限から1年を経過した令和5年4月1日に商品代金の支払いをする場合には、商品代金の100万円に加えて、1年間支払いを滞納したペナルティーとして遅延損害金10万円を支払わなければなりません。

  2. (2)財産分与と遅延損害金

    財産分与とは、婚姻期間中に夫婦が協力して築いた財産を離婚時に清算する制度のことをいいます。

    財産分与の割合は、基本的には2分の1とされていますので、夫婦の共有財産が500万円あった場合には、財産分与によって、夫が250万円、妻が250万円というように分けることになります。

    遅延損害金は、金銭債務の履行を怠った場合に発生するペナルティーです。したがって、金銭の支払いを伴う財産分与については遅延損害金の条件をつけることは可能である、といえます。

    もっとも、離婚する際に、財産分与の金額を取り決めたものの遅延損害金についての取り決めをしていないという方も少なくないでしょう。

    このような場合でも遅延損害金を請求することができますのでご安心ください
    民法では、遅延損害金の合意がなかったとしても、金銭債務に不履行があった場合には、法定利率による遅延損害金を請求することが認められているのです(民法415条)

2、遅延損害金はいつから加算できる?

では、財産分与において遅延損害金は、いつから発生するのでしょうか。以下では、遅延損害金の発生時期と利率について説明します。

  1. (1)遅延損害金の発生時期

    前述の通り、遅延損害金は債務の支払いを怠ったことへのペナルティーとして課されるお金です。したがって、遅延損害金は、支払期日の翌日から発生することになります。

    財産分与においても、遅延損害金の発生時期は、支払期日の翌日からとなりますが、そうすると、財産分与の支払期日がいつであるかが問題になります。

    調停離婚の場合には、財産分与の取り決めをした場合には、「〇年〇月〇日までに財産分与として○○万円を支払う」などの期限を定めるのが一般的です。

    このような場合には、当事者が合意で定めた支払期限の翌日から遅延損害金が発生することになります。

    他方、裁判離婚の場合には、裁判所の判決の主文で財産分与に関する事項が言い渡されることになりますこの場合には、調停離婚の場合のように期限が設けられることはありませんので、離婚判決確定の日が支払期日となり、その翌日から遅延損害金が発生します

    なお、判決は、当事者が判決を受け取ってから2週間以内に不服申立てをしなければ確定します。

    当事者の話し合いによる協議離婚であれば、財産分与の取り決めをした際に期限を定めた書面を作成すべきといえます。

    もし、支払期限を定める書類などがない場合は、支払いの期限について争いになる可能性が出てきます。

  2. (2)遅延損害金の利率

    遅延損害金の利率については、当事者間の合意がある場合にはその利率が適用され、合意がない場合には法定利率が適用されることになります。

    法定利率とは、法律に定められている利率のことをいい、民法では、法定利率を3%と定めています(民法404条2項)。3%の法定利率は、令和2年4月1日の改正民法施行により新たに定められた利率であり、それ以前は法定利率が5%とされていました。

    さらに、改正民法では法定利率を固定化しておらず、3年ごとに見直すことになっています。したがって、今後の金利水準の動向次第では、法定利率が3%から変動する可能性があります。

    財産分与に遅延損害金についての条項をつけたいと考えている場合は、注意が必要です。

    ※遅延損害金の法定利率
    年利3%という利率は、2023年4月1日時点の利率です。
    2023年4月1日から2026年3月31日までの法定利率は、年利3%と法務省より発表されました。
    ※参考:法務省 令和5年4月1日以降の法定利率について

3、財産分与を請求できる期間は2年間

離婚が成立した後に財産分与を請求したいと考えている場合には、法律上期限が設けられています。早期に対応する必要がある点に注意が必要です。

  1. (1)財産分与は離婚後2年以内に請求する

    離婚と同時に財産分与の取り決めをすれば、財産分与を請求する期限について気にする必要はありません。

    しかし、さまざまな理由から離婚を先行させて、財産分与の話し合いを離婚後に行うということがあります。
    離婚後であっても財産分与を請求することは可能ですが、その場合には、離婚成立後2年以内に請求する必要があります。

    財産分与を請求できる期間は、除斥期間と呼ばれるものです。

    原則として離婚から2年が経過してしまうと、請求する権利そのものが失われてしまいますよく耳にする時効とは異なり、完成猶予や更新といった手段によって期間の進行をストップしたり、リセットしたりすることはできません

  2. (2)例外的に除斥期間経過後に請求できるケース

    前述の通り、財産分与は2年の除斥期間が経過してしまうと財産分与を請求することはできなくなります。

    しかし、以下のようなケースでは、例外的に財産分与に準じた金員の支払いを求めることができる可能性が出てきます。

    ① 当事者の合意によって財産分与をするケース
    財産分与の期間制限は、当事者が家庭裁判所に対して財産分与の請求を求める際に適用される期限です。

    そのため、当事者双方の合意があるのであれば、2年の期限を経過した後であっても財産分与を請求することは可能です。

    もっとも、財産分与を求められた側としては、期限経過後に財産分与の請求に応じるメリットはありませんので、通常のケースでは、相手の合意を得ることは難しいといえるでしょう。

    ② 相手による財産隠しがあったケース
    財産分与では、お互いに財産を開示し合って、財産を分けるのが基本となります。

    しかし、不誠実な人は、相手に知られていないことをいいことに財産開示に応じず、財産を隠してしまうことがあります。

    このような財産隠しをされると、本来得られるはずの財産よりも少ない財産しか受け取ることができませんので、財産隠しを受けた側としては大きな不利益を被ることになります。

    財産隠しがあったケースであっても、2年という財産分与の期限は適用されますので、2年を経過してしまうと財産分与を求めることはできません。

    しかし、権利者は、財産隠しという不当・違法な行為によって権利の実現を妨げられていますので、財産分与請求権ではなく、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償請求という形で、財産分与相当額を請求できる可能性が出てきます

4、財産分与に関することは弁護士にご相談を

財産分与の支払いに関することは、専門家である弁護士に相談をすることをおすすめします。

  1. (1)公正証書の作成をサポート

    財産分与の合意ができた場合には、口頭での合意で済ますのではなく、その内容を書面に残しておくことが大切です。

    また、書面を残す場合であっても、単なる合意書という形ではなく、遅延損害金の内容や強制執行認諾条項を付した公正証書にしておくことをおすすめします。

    公正証書とは、公証役場で依頼して公証人に作成してもらう公文書のことを指します。

    公正証書を作成する最大のメリットとしては、債務者が支払いを怠った場合に、裁判手続きを経ることなく債務者の財産を差し押さえることが可能になるという点です

    通常のケースでは、たとえ書面による合意があったとしても、裁判所に訴訟を提起して判決を得てからでなければ、強制執行の申し立てをすることはできません。

    訴訟提起となれば、時間も費用もかかりますが、公正証書にすることによってそのような負担を回避することができます。

    弁護士であれば、相手との交渉だけでなく公正証書の作成もサポートしますので、将来トラブルにならないような公正証書の作成が可能です。

  2. (2)財産分与調停の申し立てや調停期日に同行

    当事者間の話し合いによって財産分与の取り決めができない場合には、家庭裁判所に財産分与請求調停または審判の申し立てをする必要があります。

    不慣れな方では、どのように申し立てをすればよいか、調停期日でどのような話をすればよいのか、調停委員に対してどのような対応をすればよいのかなど不安なことが多いと思います。

    弁護士であれば、調停期日にも同行することが可能です。初めての調停であっても安心して臨むことができるといえるでしょう。

  3. (3)強制執行により相手の財産を差し押さえ

    財産分与の取り決めをしたとしても、相手がその内容に従って支払いを行わない場合には、強制執行の申し立てをして権利の実現を図ることになります。

    ただし、強制執行の申し立てをするにあたっては、債権者の側で債務者の財産を特定して申し立てをする必要がありますので、債務者がどのような財産を有しているのかわからないという場合には、強制執行の申し立てが難しいケースもあります。

    しかし、弁護士であれば、財産開示手続きなどによって、相手の財産を明らかにしたうえで強制執行の申し立てを行うことができます弁護士に依頼することによって、財産分与をはじめとした未払いのお金を回収することができる可能性が高くなるといえます

5、まとめ

財産分与で金銭の支払いを約束したにもかかわらず、期限までに支払いがなされないという場合には、遅延損害金を請求することが可能です。

遅延損害金というペナルティーによって、お金の支払いを期限通りに行うという動機につながりますが、それ以外にも公正証書の作成なども行うことによって確実性が増す結果につながるでしょう。

離婚時の財産分与や離婚慰謝料請求などでお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスまでお気軽にご相談ください。親身になって対応します。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています