中絶の強要は離婚理由になる? 慰謝料・親権・養育費などの注意点
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厚生労働省の公表している「令和6年度衛生行政報告例の概況」によると、令和6年度の日本国内における人工妊娠中絶の件数は12万7992件あり、前年度よりも1258件増加しました。
なかには夫から中絶を強要され、夫への嫌悪感・不信感が強まり、離婚を真剣に考える方もいるかもしれません。
本コラムでは中絶強要が離婚理由になるかについて、慰謝料・親権・養育費などの注意点と併せてベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
1、夫が中絶を強要したことは離婚理由になる?
中絶の強要が離婚理由になるかは、協議離婚か裁判離婚かによって異なります。
協議離婚の場合は夫婦が合意すれば理由に関係なく離婚できます。したがって、夫による中絶の強要も離婚理由となり得ます。
一方、裁判になった場合には「法定離婚事由」がなければ離婚が認められません。
ここでは、法定離婚事由とは何か、中絶強要が法定離婚事由に該当するのかについて、詳しく解説していきます。
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(1)法定離婚事由とは?
「法定離婚事由」とは、民法に規定されている裁判で離婚が認められるべきとされる離婚理由のことです。民法770条1項には以下の5つが法定離婚事由として規定されています。
- 一 配偶者に不貞な行為があったとき
- 二 配偶者から悪意で遺棄されたとき
- 三 配偶者の生死が三年以上明らかでないとき
- 四 配偶者が強度の精神病にかかり、回復の見込みがないとき(※)
- 五 その他婚姻を継続し難い重大な事由があるとき
※令和6年(2024年)の民法改正により、法定離婚事由のひとつである「強度の精神病」に関する第4号は削除されることとなりました。なお、令和8年(2026年)5月までに施行される予定です。
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(2)中絶強要は法定離婚事由に該当する?
中絶の強要が「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法770条1項5号)に該当すると認められれば、裁判で離婚が認められる可能性があります。
たとえば、以下のようなケースは、法定離婚として認められる可能性があります。- 中絶後に夫婦関係が修復不可能な程度に悪化したケース
- 中絶が理由で夫婦関係が悪化して長期間別居しているケース
- 暴行を伴う中絶強要があったケース
2、中絶に対する後悔や不信感が強い場合の選択肢
中絶による後悔や夫への不信感が強く、精神的なダメージが大きいときには、すぐに離婚を決断する前に、段階的に行動を整理することもひとつの方法です。
ここでは、いくつかの選択肢をご紹介します。
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(1)別居する
まずは夫と距離を置き、心身を落ち着ける時間を作るために、「別居する」という選択肢を考えてみましょう。
物理的に夫と離れることで、自分の気持ちや現在状況を冷静に見つめなおし、今後どのような選択をすればよいかを落ち着いて考えることができます。 -
(2)カウンセリングを受ける
中絶への後悔や不信感、罪悪感といった複雑な感情を整理するため、専門の心理カウンセラーに相談することも有効です。
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(3)「離活」をする
離婚を決意した場合は、相手配偶者に離婚を切り出す前に離活(離婚の準備活動)をしましょう。
「離活」とは、離婚のための証拠収集をはじめ、離婚後の収入・住宅確保等の生活設計、財産分与や親権獲得のための準備などです。まずはこれらの情報を集め、ロードマップを描くことが大切です。
「離活」をせずに話を切り出すと、離婚条件で不利になる可能性もあるため、入念な準備が必要です。 -
(4)離婚をする
離婚は、通常「協議→調停→裁判」の順で進んでいきます。詳しくみていきましょう。
① 離婚協議
もっとも多く利用されている離婚方法が「離婚協議」による離婚です。夫婦が話し合い、合意できれば離婚条件を離婚協議書や公正証書(公証役場で作る公文書)にまとめ、離婚届を市町村役場に提出します。
② 離婚調停
協議がまとまらない場合は家庭裁判所に「離婚調停」を申し立てましょう。調停は調停委員が当事者の間に入り、アドバイスや和解案を提示しながら話し合いでの問題解決を目指す制度です。
アドバイスや和解案はあくまでも提示であり、納得できない場合は拒否することもできます。双方が合意に至れば、調停離婚が成立します。
③ 離婚裁判
何度調停が開かれても合意に至らない場合や、相手が調停に出廷しない場合は「離婚裁判」を提起する必要があります。
原則として調停前に裁判を起こすことはできないことをご留意ください(調停前置主義)。
離婚裁判では、提出された証拠や資料、当事者の主張を元に裁判官から紛争に対する判決が下されます。判決が確定すれば裁判離婚の成立です。
お問い合わせください。
3、中絶を理由に離婚する場合に慰謝料請求できるケース・相場
中絶を理由に離婚する場合、慰謝料請求ができるケース・できないケースがあります。
慰謝料請求ができるケースや相場について詳しくみていきましょう。
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(1)慰謝料請求できるケース
中絶により肉体的・精神的に苦痛を受けた場合、慰謝料請求が可能です。
具体的には以下に挙げられるケースです。- 中絶を無理強いされた
- 避妊していると嘘をつかれた結果妊娠し、中絶に至った
- 性交渉に同意がなかった
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(2)慰謝料相場
慰謝料の金額は、強要の程度や状況、証拠(LINE・録音・診断書など)の有無が大きく影響します。
中絶したこと自体に対する慰謝料相場は、ケースにもよりますが、100万〜200万円程度です。たとえば暴力を伴う中絶強要や、他にも相手が不貞行為を働いているといった場合には高額になる可能性があるでしょう。
たとえば、原告である女性の妊娠発覚後に、「子どもは認知しない」と述べ突き放した被告の男性に慰謝料約160万円の支払いを命じた判例があります(東京地方裁判所平成27年7月31日判決)。
なお、慰謝料の金額に中絶費用は含まれないため、中絶費用も支払ってもらえていない場合は、それも請求できる可能性があります。
中絶費用として請求できる可能性のある費用は以下のとおりです。- 中絶手術費
- 妊娠中の診療費や診察に行くための交通費
- 中絶のための診療費や入院費、交通費
- 会社を休んだ場合の休業損害
- 後遺症の治療費
ただし、妊娠が双方合意の上だった場合、それを理由に損害額を減額される可能性があります。
4、離婚する場合の注意点|親権・養育費など
離婚する場合の注意点をいくつかみていきましょう。
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(1)親権・養育費・面会交流についての決め方を知っておく
子どもがいる場合、親権・養育費・面会交流について取り決めておく必要があります。
現行法上、単独親権者を決めて離婚届に親権者を記入しなければ離婚できません。親権について話し合い、決まらなければ「調停→裁判」の流れで決めていくことになります。
養育費については、夫婦の話し合いで自由に金額や支払期間について決めることができますが、個々のケースに応じた養育費の相場を知る手段として利用されているのが「養育費算定表(改定標準算定表)」です。
「養育費算定表(改定標準算定表)」とは、夫婦の年収や未成熟子の年齢・人数を考慮した養育費計算表のことを指します。養育費について決める流れも親権と同様「協議→調停→裁判」です。
面会交流は、主に親権者にならなかった親と子どもの離婚後の交流のことで、直接会う場合や電話やメールでやりとりする場合がある一方、そもそも面会交流を相手に認めない場合もあります。
面会交流は自分が何となく相手に子どもを会わせたくないから、という理由で拒否することはできません。暴力や虐待など、子どもへの悪影響があるケースを除き、原則として面会交流は子どもの健全な成長のためにも行うべきであると考えられています。
面会交流の頻度や方法について細かく取り決めることが有用です。
ちなみに、養育費は子どもを育てるために必要な費用、慰謝料は精神的苦痛に対する損害賠償として支払われる費用であり、養育費は親子間、慰謝料は夫婦間の問題であるという違いがあります。 -
(2)中絶に関連する慰謝料は認定ハードルが高い
解説してきたように、中絶に関連する精神的苦痛への慰謝料は認められる可能性は確かにあります。しかし、妊娠が当事者双方の合意に基づいていた場合、中絶に対する責任は基本的に男女双方にあると考えられます。
そのため、相手に対して一方的に慰謝料を請求しても、法的には認められない可能性が高く、請求が棄却されるケースも少なくありません。 -
(3)冷静に離婚条件を整理する視点が大切
実際に離婚を進める際は、感情的な判断を避けて冷静に親権・養育費・慰謝料などを法的に整理する視点が大切です。しかし、中絶が関連した離婚問題について、感情的にならず冷静に判断していくことは、個人だけでは難しいでしょう。
弁護士に相談すれば、的確なアドバイスを受けることができます。また、相手との交渉や、調停・裁判になった場合の手続きなど一連の対応を任せることができるため、精神的・肉体的な負担も軽減されるでしょう。
弁護士には守秘義務があり、プライベートな問題が外に漏れる心配もありませんので、お悩みの際にはぜひ一度弁護士への相談をご検討ください。
お問い合わせください。
5、まとめ
中絶は非常にプライベートでセンシティブな問題です。だからこそ、誰にも相談できずに苦しんでいる方も多いのではないでしょうか。
弁護士には守秘義務があります。ご相談内容が外部に漏れることはありません。離婚を考える前でも、まずは情報収集の一環として弁護士に相談してみることをおすすめします。
ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスでは、あなたの気持ちに寄り添いながら、法的に適切なアドバイスをご提供します。ひとりで抱え込まず、ぜひ一度ご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
