養育費の取り決めを書面に残すメリットとは? 公正証書の作成を解説

2024年05月08日
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養育費の取り決めを書面に残すメリットとは? 公正証書の作成を解説

令和3年、大阪府の人口動態調査によると、大阪府天王寺区では152件の離婚が成立しました。

子どもがいる夫婦が離婚をする時に重要な取り決めのひとつが「養育費」です。養育費は、子どもの監護や教育のために必要な費用ですが、離婚後、不払いや滞納に悩まされるケースが少なくありません。

そのため、養育費の取り決めは、「強制執行認諾文言付き公正証書」という書面に残すことが大切です。ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。

1、養育費の取り決めは書面に|公正証書にすることが望ましい

養育費については夫婦間での話し合いで取り決めることができますが、内容を書面、特に「公正証書」にすることが大切です。ではなぜ養育費についての取り決めを「公正証書」にする必要があるのでしょうか?

そもそも養育費とはどのような費用を指すのか、公正証書とは何かについて解説していきます。

  1. (1)養育費とは?

    親には子どもが未成熟子(いまだ経済的・社会的に自立して生活することができない状態の子)である期間、生活費や教育費、医療費など、子どもの監護や教育のために必要な費用を支払う義務があります(民法877条)。この費用が「養育費」です。

    養育費は、離婚をして親権を持たない親(非親権者)になったとしても“支払義務”がなくなることはありません

    この養育費の支払義務は「生活保持義務」という非常に重い義務です。すなわち、生活保持義務は、たとえお金に余力がなくても権利者が自分(義務者)と同じ生活レベルで暮らせるように保障する義務です。そのため「最後の米一粒もわけあう」という例えのように、非親権者は余力がない状況にあっても子どものために養育費を支払う義務があるのです。

  2. (2)公正証書とは?

    夫婦の話し合いで離婚が成立する「協議離婚」の場合、親権や財産分与、養育費などについての取り決め内容は「離婚協議書」に記載します。ここで大切なのは、離婚協議書の内容を「公正証書」にしておくということです

    公正証書は、公証役場で「公証人」といわれる公務員に作成してもらえる公文書のことです。

    一般的な契約書である離婚協議書と比べると
    ① 証拠力が高い
    ② 紛失・改ざんを防げる
    という特徴があります。詳しくは以下の通りです。

    ① 証拠力が高い
    公正証書の作成時には、「当事者の立ち会いが必要なこと」、「公証人が職務上作成した文章であること」から、公正証書は契約書のような私文書と比べて高い証拠力を持ちます。そのため、仮に非親権者に「自分はその取り決め内容に合意していない」といわれた場合でも、公正証書の内容に沿って養育費の支払いを主張することができます。

    ② 紛失・改ざんを防げる
    一般的な契約書などは自宅に保管することで紛失や誰かに書き換えられてしまうリスクがあります。一方で公正証書を作成すると、公証役場で公正証書の原本を20年間保管してもらえるため、紛失や改ざんのおそれがありません。

2、養育費の取り決めを公正証書で書面に残すメリット

養育費についての取り決めを「公正証書」で書面に残す3つのメリットについて解説していきます。

  1. (1)強制執行認諾文言による法的効力がある

    公正証書に「強制執行認諾文言」をつけておくと、非親権者からの養育費の支払いが滞った場合、裁判などの手続を経ずに強制執行で相手の財産を差し押さえることが可能です。つまり、養育費に関する強制執行認諾文言付きの公正証書を作成することは「法的効力(執行力)がある」といえます

  2. (2)心理的効果によって養育費の支払いの継続が見込める

    強制執行認諾文言を付けた公正証書を作成しておくと、「養育費の支払いを行わないと給料を差し押さえられてしまう」というプレッシャーによって、非親権者からの継続的な養育費の支払いが期待できるでしょう。

  3. (3)トラブルを未然に防げる

    前述の通り、公正証書は証拠力が高く、紛失・改ざんを防げるという特徴があります。そのため、あとから「その条件には合意していない」、「その文章は偽造だ」という書類に対して言いがかりをつけられるようなトラブルを防ぐことができるでしょう。

3、養育費の公正証書に記載すべき内容とは

養育費についての公正証書には以下の内容を記載するようにしましょう。

  1. (1)1か月の金額

    養育費は一括払いにするケースもありますが、月々の分割払いにするケースの方が一般的です。そのためまずは「1か月の金額」を決めましょう。

    養育費の金額は夫婦の話し合いで自由に決めることができますが、「養育費算定表」を参考に決めるケースもあります。「養育費算定表」は夫婦それぞれの年収や未成熟子の年齢や人数を考慮した養育費の計算表で、家庭裁判所で養育費の金額を決める際に参考にされているものです。

    「養育費算定表」による金額にするか、それ以上の金額にするかは夫婦の自由ですが、1か月の養育費の金額を決めて公正証書に記載しましょう

  2. (2)支払期間

    養育費の支払いを始める日(始期)と終える日(終期)を明確に定めて記載する必要があります。

    支払いの始期は「親権者が養育費の支払いを非親権者に請求した時」にすることが一般的です。夫婦間の話し合いで請求をした時や、家庭裁判所を介する調停を申し立てた時がこれにあたります。まれに、さかのぼって支払いが行われることもありますが、実務上支払始期は「申立時」とされることが多いでしょう。

    支払いの終期は「20歳になるまで」が原則です。成年年齢に関する法改正が2022年4月1日に行われて成年年齢が「18歳」に引き下げられましたが、これに伴って養育費の支払い終期が早まることはありません。

    ただし、通常、「養育費は成人になるまで支払う」という取り決めを行った場合は「18歳になる時」、「養育費の支払いは大学を卒業するまで」という取り決めを行った場合は20歳を超えて子どもが「大学を卒業する時」が終期になります。ケース・バイ・ケースで始期も終期も異なるため、公正証書に明確に記載しておくことが重要です。

  3. (3)支払時期・方法

    養育費をいつ支払うのか(月末払いや年末払いなど)、支払方法はどうするのか(振り込みや手渡しなど)なるべく詳細に取り決め記載しましょう。

    なお、支払いを振り込みにする場合は振込先口座を誰の名義の口座にするかも決めます子ども名義の口座にするケースもあれば親権者名義の口座にするケースもあるため、よく話し合い決定しましょう

  4. (4)特別費用

    原則として養育費の支払いに含まれませんが、話し合い次第で以下の費用を「特別費用」として請求できるケースがあります。

    • 私立高校や大学の入学費や学費
    • 塾代や習い事の費用
    • 怪我や病気の入院費や治療費


    特別費用の金額に相場はありません。そのためたとえば「入学費は非親権者が支払う」「学費は折半する」など自由に決めることができます。その場で細かく決めない場合は「特別費用についてはその都度別途協議する」など将来の話し合いを見据えた文章を公正証書に記載しておくといいでしょう。

4、公正証書を作成する際の注意点

公正証書を作成する時にはいくつか気をつけておかなければならないことがあります。

  1. (1)夫婦そろって手続きをする

    一つ目は「離婚する夫婦がそろって作成しなければならない」ということです。公正証書は公証役場に出向いて公証人に作成してもらいますが、やむを得ない事情がない限り、原則として夫婦そろって出向き手続きを行わなければなりません

  2. (2)一度作成した内容は原則として変更できない

    二つ目は「一度作成した内容は原則として変更できない」ということです。離婚後しばらくして何らかの事情により公正証書の内容を変えたい時が来るかもしれません。しかし簡単に変えられてしまっては高い証明力や法的拘束力が揺らいでしまいます。

    そのため原則として変更はできませんが、夫婦間で合意した場合や家庭裁判所の調停や審判によって「子どものために必要」とされた場合は変更ができるケースもあります

  3. (3)不払い防止のために強制執行認諾文言を入れる

    最後は「強制執行できるようにするためには強制執行認諾文言が必要」ということです。養育費が不払いとなった場合に相手の給料を差し押さえようとしても「強制執行認諾文言」がない場合は公正証書を作成していても強制執行ができません。

    トラブルの防止やスムーズな養育費の回収のためにも、必ず「非親権者が養育費の支払義務を履行しない場合、直ちに強制執行を受けることに同意した」などの文言を入れましょう

5、まとめ

厚生労働省によると母子家庭への養育費は、離婚時に取り決めをしても、「現在も受けている」のは約3人に1人という結果もでています。

そのため、子どもの生活を守るために公正証書の作成は重要な役割を持ちます。公正証書を作成する際は「夫婦そろって作成する」、「原則として変更できない」、「強制執行認諾文言がないと強制執行できない」ことに気をつけましょう。

養育費の取り決めや、適切な公正証書の作成は、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士にぜひご相談ください。実績ある弁護士が、離婚後の安定した生活のために真摯にサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています