ひき逃げをしてしまった……時効はある? 逮捕されたらどうなる?

2023年03月28日
  • 交通事故・交通違反
  • ひき逃げ
  • 時効
ひき逃げをしてしまった……時効はある? 逮捕されたらどうなる?

令和4年7月、大阪市内の国道で車両に衝突する事故を起こした男が「ひき逃げ」の容疑で逮捕されました。男は、事故の際運転していた車を放置して逃走し、天王寺区内の交番で車両盗難の被害届を提出していたことから、盗難を装いひき逃げの容疑から逃れようとしていた疑いがあるとして報じられています。

交通事故を起こしてその場を去っても逃げ切るのは容易ではありません。その場から逃げ切ることができても「時効」が完成するまでは「逮捕されるかもしれない」という不安と隣り合わせの生活が続きます。

もし、ひき逃げを起こして「時効まで逃げ切って罪を免れたい」と考えているなら、考えを改めたほうが賢明です。本コラムでは「ひき逃げの時効」について、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。

1、「ひき逃げ」は複数の罪に問われる

「ひき逃げ」とは、車やバイクなどの運転で交通事故を起こして相手にケガをさせたうえで、事故を起こした当事者に課せられる義務を果たさずその場から逃げることをいいます。

一般的には「車が横断中の歩行者をはねた」といった事故をイメージするかもしれませんが、たとえば車同士の衝突で相手の運転手・同乗者がケガをしたのにその場から逃げた場合もひき逃げです。

交通関係の法令といえば「道路交通法」や「自動車運転処罰法」などがありますが、これらの法令を詳しく調べても「ひき逃げ罪」といった規定は見当たりません。「ひき逃げ」とは交通事故・交通事件の形態を指す用語で、法令の定めに照らすと複数の罪に問われます

  1. (1)人身事故を起こしたことに対する罪

    相手に死傷の結果を生じさせた「人身事故」を起こした場合は、「自動車運転処罰法」による処罰を受けます。この点については、ひき逃げをした場合はもちろん、警察に通報して事故処理を受けた場合でも変わりません。

    自動車運転処罰法とは、正しくは「自動車の運転により人を死傷させる行為等の処罰に関する法律」といい、人身事故を罰するとともに悪質な運転による人身事故を従来よりも厳しく罰する目的で制定された法律です。

    自動車運転処罰法では、事故の形態に応じて次のように罰則を設けています。

    • 危険運転致死傷罪(第2条)
      危険運転にあたる行為により人身事故を起こした場合に適用されます。相手にケガをさせた場合は「危険運転致傷罪」となり、15年以下の懲役、相手を死亡させた場合は「危険運転致死罪」で1年以上の有期懲役です。

    • 過失運転致死傷罪(第5条)
      車の運転において必要とされる注意を怠って人身事故を起こした場合に適用されます。車の運転には「事故を防ぐ、回避する」という注意義務が求められるので、特に危険な運転ではなくても処罰は免れられません。
      相手にケガをさせた場合は「過失運転致傷罪」、相手を死亡させた場合は「過失運転致死罪」ですが、罰則はいずれも7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金です。ただし、過失運転致傷罪が適用され、相手の負傷程度が軽い場合は、情状により刑が免除される可能性があります。
  2. (2)事故当事者の義務を怠ったことに対する罪

    交通事故に関係した車の運転手や乗務員には、道路交通法第72条1項に従い、直ちに運転をやめ、事故当事者としてその場で果たすべき義務が定められています

    • 救護義務
      負傷者を救護する義務が課せられます。心臓マッサージなどの応急救護や救急への119番通報などが必要です。

    • 危険防止措置義務
      道路における危険を防止するなどの措置を指します。事故車両を安全な場所に移動させる、発煙筒で後続車に事故を知らせるなどの措置が必要です。

    • 報告義務
      交通事故が発生した事実を、現場の警察官やもよりの警察署などに報告する義務を指します。現場に警察官がいるケースは少ないので、一般的には110番通報をする義務だと考えればよいでしょう。警察への報告は「直ちに」しなければなりません。事故直後、あるいは救護や危険防止などの措置を取った直後を指すので、その場から離れたあとや自宅に帰って家族や保険会社に相談したあとでは報告義務を怠ったことになります。


    各義務を怠った場合の罰則は次のとおりです。

    • 救護義務違反(第117条)
      人の死傷があった場合は5年以下の懲役または50万円以下の罰金、当該運転手の運転に起因するものであるときは10年以下の懲役または100万円以下の罰金

    • 危険防止措置義務違反(第117条の5第1号)
      1年以下の懲役または10万円以下の罰金

    • 報告義務違反(第119条10号)
      3か月以下の懲役または5万円以下の罰金

2、ひき逃げの時効は相手の死傷程度で異なる

罪を犯しても、一定期間を過ぎると「時効」となり、罪には問われなくなることはよく知られていることでしょう。では、ひき逃げの場合はどのくらいの時間がたてば時効が成立するのでしょうか?

  1. (1)ひき逃げにおける「時効」の考え方

    いわゆる「時効」とはいくつかの種類がありますが、一般的には検察官が刑事裁判を提起できるまでのタイムリミットを指す「公訴時効」を指すものだと考えられます。

    公訴時効の進行が始まるのは「犯罪が終了したとき」なので、ひき逃げの時効の起算点は「事故が発生した日」です。また、公訴時効は「日」で計算するので、たとえば事故が発生した時間が午前1時でも午後11時でも、期日の午前0時が到来した時点で完成します。

    ひき逃げの時効について考えるとき、問題となるのが「複数の罪を同時に犯している」という点です。このようなケースを「併合罪」といい、それぞれの罰則を合計するのではなく「もっとも重い罪の上限の1.5倍」で刑罰が科せられます

    つまり、ひき逃げに対する刑罰は、複数の罪のうちどの罪がもっとも厳しい刑罰を予定しているのかについて、注目しなければなりません。

    ただし、時効を考える場合は、適用される複数の罪についてそれぞれ異なる罰則が予定されているので、段階的に時効が成立していきます。公訴時効は、罪の重さに応じて期間が異なる点についても注意が必要です。

  2. (2)相手にケガをさせてしまった場合

    相手にケガをさせてしまった場合は、危険運転致傷罪または過失運転致傷罪、さらに救護義務違反・報告義務違反に問われます。そして、「人を死亡させた罪」にあたらない場合の時効は刑事訴訟法第250条2項に定められています。それぞれの罰則に照らした時効については以下のとおりです。

    【人身事故を起こしたことに対する罪】
    • 危険運転致傷罪:法定刑が15年以下の懲役なので、時効は10年
    • 過失運転致傷罪:法定刑が7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金なので、時効は5年
    【事故当事者の義務を怠ったことに対する罪】
    • 救護義務違反:法定刑が10年以下の懲役または100万円以下の罰金なので、時効は7年
    • 報告義務違反:法定刑が3か月以下の懲役または5万円以下の罰金なので、時効は3年


    たとえば、不注意で人身事故を起こしてその場から逃げた場合は、5年が過ぎれば過失運転致傷罪には問われなくなるものの、救護義務違反の時効が残っているので、7年以内なら罪に問われる可能性が残ります

  3. (3)相手を死亡させてしまった場合

    相手を死亡させた場合は、危険運転致死罪または過失運転致死罪のいずれかが適用されます。ひき逃げ、つまり事故後その場から逃げれば救護義務違反・報告義務違反に問われるのはケガで済んだ場合と同じです。

    「人を死亡させた罪」にあたるため刑事訴訟法第250条1項が適用され、時効期間も長くなります。

    【人身事故により相手を死亡させたことに対する罪】
    • 危険運転致死罪:法定刑が1年以上の有期懲役(上限は20年)なので、時効は20年
    • 過失運転致死罪:法定刑が7年以下の懲役もしくは禁錮または100万円以下の罰金なので、時効は10年


    ここで注意を要するのが、救護義務違反・報告義務違反は「人を死亡させた罪」ではないという点です。「人を死亡させた」のはあくまでも人身事故の部分なので、事故当事者としての義務を怠った罪は「人を死亡させた罪」にあたりません。つまり、救護義務違反そのものの時効は7年、報告義務違反の時効は3年のままです。

3、ひき逃げをすると逮捕される? その後はどうなる?

ひき逃げをしてしまうと、その日から「逮捕されるかもしれない」という不安に悩まされ、警察官やパトカーの姿を見ただけでも逃げ出したくなる生活が続きます。しかし、事故現場に目立った証拠も残していなければ「もしかすると時効まで逃げ切れるのかもしれない」と期待したい気持ちにもなるでしょう。

実際にひき逃げをすると逮捕されてしまうのでしょうか?

  1. (1)ひき逃げの検挙率は上昇している

    ひき逃げの検挙率は年々増加しています。令和3年版の犯罪白書によると、令和2年中の検挙率は死亡事故で97.8%、重傷事故で79.9%、全体では70.2%でした。

    従来、ひき逃げは事故現場に遺留された車の破片から車種を特定し、現場や被害者の身体に残った塗料片から塗色をつきとめて、その車に乗っている人をしらみつぶしに調べるという地道な捜査が行われていました。

    しかし、近年はドライブレコーダーの普及や街頭の防犯カメラの増加なども手伝い、事故当時の状況が明らかになりやすい環境が整っています。周囲に目撃者がいないような状況でも、防犯カメラの解析などによって特定され、検挙されてしまう危険が高いといえるでしょう

  2. (2)重傷・死亡のひき逃げは逮捕される危険が高い

    重傷・死亡させてしまった場合は厳しい刑罰が予定されています。

    しかも、正しく事故処理を受けることなく、負傷者を救護せずにその場を逃走しているという状況があることは否定できません。したがって、逮捕の要件である「逃亡または証拠隠滅を図るおそれ」を満たすため、逮捕の危険は極めて高いといえる状況に陥りやすいと考えられます。

  3. (3)逮捕後の刑事手続きの流れ

    警察に逮捕されると、次のように刑事手続きが進みます。

    • 警察における48時間以内の身柄拘束
    • 検察官への送致、24時間以内の身柄拘束
    • 釈放または勾留
    • 勾留された場合は、初回10日間、延長を含めて最長20日間の身柄拘束
    • 起訴・不起訴の決定
    • 被告人としての勾留
    • 刑事裁判


    人身事故を起こしても、必ず逮捕されるわけではありません。また、逮捕されたとしても、勾留の必要はないと判断されて在宅捜査へと切り替えられるケースもあります。

    ただし、ひき逃げは悪質な行為だと評価されやすいうえに、発生の直後から協力的な姿勢を示した事故とは異なって厳しい取り調べが続く可能性が高いと考えられます。身柄拘束の期間が長引きやすいという傾向があるでしょう。

    身柄拘束が長引くと、家庭・会社・学校といった社会生活と隔離されてしまう時間も長くなるので、その後の生活に悪影響をもたらすのは必至です。

4、ひき逃げはスピード対応が重要! 今すぐ弁護士に相談を

交通事故を起こしたとき、気が動転してしまうのは仕方のないことです。正しい判断ができなくなり、焦ってその場から逃げてしまう方も決して少なくないでしょう。

万が一、ひき逃げをしてしまったら、今すぐ弁護士に相談してサポートを受けるのが最善です。

  1. (1)時間が過ぎるほど加害者が不利になる

    人身事故を起こしてその場から逃げれば、その時点で「ひき逃げ」が成立します。

    1時間後でも、1日後や1か月後でも、時効直前になったとしても、問われる罪が変わることはありません。しかし、時間が過ぎれば過ぎるほど「逃げた」という事実が重く評価されてしまいます

    任意の在宅捜査では事実が明らかにならないとして逮捕・勾留されたり、検察官が「厳しく処罰されるべきだ」と判断して起訴されてしまったりする危険が高まるでしょう。

    時間が過ぎてしまうとどんどん不利な状況に追い込まれてしまうので、積極的にアクションを起こして早期解決を目指すべきです。

  2. (2)事故直後なら「自首」したほうが有利になる可能性がある

    事故直後のタイミングなら、警察に「自首」したほうが結果的によいケースがあります。自首とは、罪を犯した者が捜査機関に発覚する前に自ら申告し、処罰を求めることを指すものです。刑法第42条1項の定めによって「刑の減軽」を受けられる可能性があります。刑の減軽を受けると罰則の上限・下限が半分になるので、結果として刑罰が軽くなるといえるのです。

    また、自ら罪を認めて捜査機関にその処分を委ねているという状況から、逃亡や証拠隠滅を図るおそれは低いと判断されやすくなり、逮捕や勾留を避けられる可能性も高まるでしょう。

    とはいえ、ひき逃げをしたあとで自首するには大変な勇気を必要とします。また、法的に自首が認められる状況なのに捜査機関が正しく扱ってくれないという危険もあるので、弁護士に同行を依頼したほうが安全です

  3. (3)被害者との示談交渉を尽くせば処分の軽減が期待できる

    交通事故の加害者に対する処分の軽重は、運転の悪質性や事故の重大性とあわせて、被害者に謝罪や賠償を尽くしているのかという点も大きく影響します。

    通常、人身事故の賠償金は加害者側が加入している保険で支払われることになりますが、自動車保険で賠償してもらえる金額を超えた部分は加害者が支払わなければなりません。加害者として賠償責任を負うのは当然ですが、過大な賠償金の請求は避けたいところです。

    弁護士に対応を一任すれば、損害の程度に応じて適切な賠償額で和解できる可能性が高まるだけでなく、相手の過失も含めた示談交渉が期待できます。示談が成立すれば、裁判官が情状酌量による減軽を認めて処分が軽い方向へと傾きやすくなるでしょう。

5、まとめ

「ひき逃げ」をしても、時効が成立すれば罪を問われなくなります。ただし、不注意でケガをさせた場合でも7年、故意に危険な運転をして相手を死亡させてしまった場合は20年と、とても発覚を免れて逃亡を続けることができるような年数ではありません。

逮捕や刑罰におびえながら不安な生活を続けるよりも、積極的に解決を目指したほうが現実的です。人身事故を起こして気が動転してしまい、その場から逃げてしまった場合は、素早く対応しなければ逮捕の危険が高まります。

時間がたてばたつほど加害者にとって不利な状況に陥ってしまうので、直ちにベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスにご相談ください。交通事故・交通事件の解決実績を豊富にもつ弁護士が、穏便な解決を目指して全力でサポートします。

  • この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています