自動車損害賠償保障法違反とは? 逮捕される可能性と受ける処罰
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大阪府警察が公表する統計データによると、令和3年に大阪市天王寺区で発生した交通事故は284件、阿倍野区では181件でした。高速道路交通警察隊が管轄している道路を除いた数字ですが、天王寺オフィス周辺でも一定数交通事故が発生していることがわかります。
交通事故はいつ起きてもおかしくないものです。そのため、自動車損害賠償保障法では、万が一に備えてすべての自動車の運転者に自賠責保険への加入を義務付けています。では、「保険料を支払いたくない」などの理由で、自賠責保険未加入の状態で自動車を運転していることが発覚した場合、どうなるのでしょうか。
今回は自動車損害賠償保障法違反について、成立する犯罪・刑事罰、刑事手続きの流れ、違反が発覚した場合の対処法などをベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
(出典:大阪市内の類型別交通事故発生状況)
1、自賠責保険未加入の場合、刑事罰が科されることがある
前述の通り、自賠責保険への加入はすべての自動車の運転者に義務付けられており、未加入の状態で自動車を運転した場合には刑事罰が科される可能性があります。
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(1)自賠責保険への加入は運転者の義務
自動車は、「自動車損害賠償責任保険」または「自動車損害賠償責任共済」(総称して「自賠責保険」)の契約が締結されているものでなければ、運行の用に供してはならないとされています(自動車損害賠償保障法第5条)。
自賠責保険から支払われる保険金は、被害者にとって最低限の補償となります。そのため、任意に加入する自動車保険とは異なり、すべての自動車運転者に自賠責保険への加入が義務付けられているのです。
したがって、自賠責保険未加入の状態で自動者を運転した場合には、自動車損害賠償保障法違反に該当します。 -
(2)自賠責保険未加入の運転者に成立する犯罪と刑事罰
自賠責保険に加入せずに自動車を運転するなどの行為は、自動車損害賠償保障法に基づく犯罪とされています。
以下に挙げるのは、犯罪に当たる自動車損害賠償保障法違反の行為と、対応する法定刑の一例です。違反行為の内容 法定刑 保険標章・共済標章などの偽造・変造等 3年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金または併科(同法第86条の2) 自賠責保険未加入の状態での自動車の運転
偽造・変造された保険標章・共済標章などの使用等1年以下の懲役または50万円以下の罰金(同法第86条の3) 偽りその他不正の手段により、保険証明書・共済証明書・保険標章・共済標章などの交付・再交付を受ける行為 6か月以下の懲役または20万円以下の罰金(同法第87条) 保険証明書を備え付けない状態での自動車の運転 30万円以下の罰金(同法第88条)
2、自動車損害賠償保障法違反に関する刑事手続きの流れ
自動車損害賠償保障に基づく犯罪に当たる行為をした場合、捜査機関による逮捕・起訴などの対象となり、最終的には有罪判決が確定して刑事罰が科されるおそれがあります。
自動車損害賠償保障法違反に関する刑事手続きは、大まかに以下の流れで進行します。
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(1)自動車損害賠償保障法違反の発覚
自賠責保険未加入での運転など、自動車損害賠償保障法違反にあたる行為が捜査機関に発覚した場合、犯罪としての捜査が開始される可能性があります。
捜査機関に自動車損害賠償保障法違反が発覚するのは、以下のケースが多いでしょう。- 交通事故を起こした場合
- 交通違反の取り締まりを受けた場合
- 交通検問を通過した場合
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(2)逮捕される? 在宅事件になる可能性は
違反の発覚後、悪質なケースであれば、警察によって被疑者が逮捕される可能性もあります。特に、重大な交通事故を起こして被害者を死亡させ、または重傷を負わせた際に自動車損害賠償保障法違反も発覚した場合には、逮捕が行われる可能性が高いでしょう。
ただし、自賠責保険未加入での運転を含めて、自動車損害賠償保障法に基づく犯罪は法定刑が軽いものが多いものです。そのため、自動車損害賠償保障法違反の被疑事実のみであれば、逮捕されずに在宅での捜査が行われる可能性が高いと考えられます。 -
(3)検察官による起訴
被疑者を起訴して刑事裁判にかけるかどうかは、検察官が裁量によって判断します(刑事訴訟法第247条)。
被疑者が逮捕されている場合、逮捕・勾留を通算して最長23日間のうちに、検察官は被疑者を起訴するかどうかの判断を行わなければなりません(同法第205条第2項、第208条第1項、第2項)。
これに対して、被疑者が逮捕されずに在宅での捜査が行われている場合、公訴時効(自賠責未加入での運転は3年)が完成するまでの間であれば、いつ被疑者の起訴・不起訴を決定しても問題ないという規定になっています。そのため、いわゆる在宅事件になっている場合は、いつ不起訴や起訴の決定がされるのかはわからないのです。
なお、犯罪の嫌疑が確実である場合でも、犯罪の悪質性や社会における更生の可能性などを考慮して、検察官が被疑者の起訴を見送るケースもあります。これを「起訴猶予処分」と言います。 -
(4)公判手続き(刑事裁判)
検察官が被疑者を起訴した場合、おおむね1か月程度後の時期に公判手続き(刑事裁判)が開かれます。公判手続きは、検察官が被告人の犯罪事実を立証し、被告人がそれに対して反論を行う形で進行します。
被告人の方針は、罪を認めて情状酌量を求めるか、それとも犯罪事実を徹底的に争うかの大きく分けて2通りです。また、複数の公訴事実で起訴されている場合には、一部だけを認めて残りを否認するなどの対応も考えられます。 -
(5)判決
検察官による犯罪事実の立証が成功したと判断したら、裁判所は被告人について有罪判決を言い渡します。これに対して、犯罪要件の一つでも立証不十分であると判断した場合、裁判所は被告人について無罪判決を言い渡します。
有罪判決の場合、同時に量刑も言い渡されます。執行猶予付きの場合と実刑(執行猶予なし)の場合に分かれますが、交通違反関係の犯罪であれば執行猶予が付くケースは少なくありません。とはいえ、有罪となれば前科が付くという事実は覚えておいたほうがよいでしょう。 -
(6)判決確定・刑の執行
判決に対して、検察官・被告人のいずれかに不服がある場合には、高等裁判所に対して控訴を行うことができます。さらに、控訴審判決に対しては、最高裁判所に対する上告も認められています。
控訴期間・上告期間はいずれも、判決の告知日から14日間です(刑事訴訟法第358条、第373条、第414条)。
控訴・上告の手続きを経て(期間内に控訴・上告がなかった場合にはそのまま)、判決は確定します。被告人は、確定した判決に従って刑罰に服することになります。
3、自動車損害賠償保障法違反が発覚した場合の対処法
自賠責保険未加入での運転など、自動車損害賠償保障法違反の事実が捜査機関に発覚した場合、場合によっては重すぎる刑事処分が下されてしまうことがあります。日常生活やご家族などへの影響を最小限に抑えるためは、以下の対応を検討する必要があります。
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(1)真摯な反省の意思・姿勢を示す
犯罪の嫌疑が確実であっても、重大な犯罪を除いて、被疑者が真摯な反省の意思・姿勢を示していれば、検察官は起訴猶予処分を行うケースが多い傾向があります。
自賠責保険未加入で運転していた場合には、速やかに自賠責保険へ加入するとともに、反省文を作成して再犯をしないことを誓うなど、検察官に対して反省の意思・姿勢をアピールしましょう。
ただし、多くの場合、罪を犯した本人がそのように主張したとしても信じてもらうことは難しく、また、どのように態度を示すべきなのか悩まれるのではないでしょうか。 -
(2)被害者がいる場合は、被害弁償を行う
交通事故をきっかけとして自賠責保険未加入での運転などが発覚した場合、被害者に対する被害弁償を行うことが非常に重要です。
特に被害者がケガをしている場合、自動車損害賠償保障法違反に過失運転致傷罪などの嫌疑も加わり、重い刑事処分を受けてしまうおそれがあります。しかし、被害者と示談を成立させて被害弁償を行えば、被害回復と処罰感情の低下が考慮され、起訴猶予処分を得られる可能性が出てくるのです。
もし交通事故を起こしてしまったら、被害者に対して真摯な謝罪を尽くして、できるだけ早期に示談を成立させられるように行動しましょう。
ただし、被害者にとって加害者はあくまでも加害者であり、直接の示談交渉を拒まれてしまう可能性があります。また、ご自身が逮捕されている場合は示談交渉自体を進めることができないことは知っておくべきです。被疑者となった本人や被疑者のご家族が無理に示談を進めようとするとさらに大きなトラブルになってしまうことも考えられるでしょう。
4、刑事事件の被疑者になってしまったら弁護士にご相談を
交通違反や自動車損害賠償保障法違反など、犯罪の嫌疑をかけられてしまった場合には、弁護士へのご相談をおすすめします。
弁護士は、被害者との示談交渉や検察官への働きかけなどを通じて、重すぎる罪に問われないよう、また、長期にわたる身柄の拘束を回避できるよう尽力します。被疑者が逮捕されて自由に行動できない場合でも、弁護士が家族を含めた外部とのやり取りや、示談交渉などの弁護活動を担当しますので、ご安心ください。
万が一検察官に起訴され、刑事裁判にかけられることになったとしても、被告人のために最大限の防御を尽くし、できる限り寛大な処分を得られるようにサポートします。
ご自身やご家族が刑事事件の嫌疑をかけられたら、速やかに弁護士までご相談ください。
5、まとめ
自賠責保険未加入の状態で自動車を運転するなど、自動車損害賠償保障法に違反した場合、犯罪の責任を問われる可能性があります。重い刑事処分を回避するためには、できるだけ早い段階で弁護士へご相談いただくのがおすすめです。
ベリーベスト法律事務所は、刑事弁護に関するご相談を随時受け付けております。交通事故を起こしてしまった方や、自賠責保険未加入が警察に発覚してしまった方は、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスにご相談ください。
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