切り抜き動画を投稿することは違法？ 罰則や逮捕されるケースを解説

これから切り抜き動画を作成・投稿して収益化を考えている方や、すでに切り抜き動画を投稿している方は、まずは切り抜き動画が「違法になる」かもしれないことを十分に理解しておく必要があります。

1. （1）オリジナル動画の権利者の許可がないと違法

   原則として、YouTubeなどで公開されている動画には、すべて権利者が存在しています。
   無料で閲覧できるものであっても、動画自体は権利者のものだと考えましょう。
   そして、権利者が存在しているオリジナルの動画を勝手に編集して、許可を得ずに公開する行為は、他人の権利を侵害しているために違法になるのです。
   
   動画の権利者は、個人ではなく法人である可能性もあります。
   たとえば、Aという名の配信者が投稿している体裁の動画でも、Aという個人ではなく制作会社が別に存在していたり、動画配信サイト側にもメディアとしての権利が発生していたりと、実態が複雑なものとなっている場合があることに注意してください。

2. （2）無許可で切り抜き動画を投稿した場合に起きる権利侵害

   動画の権利者に無許可で切り抜き動画を投稿すると、「著作権」を侵害したことになります。
   
   著作権とは、著作物を保護する権利です。
   著作物とは「思想または感情を創作的に表現したもので、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するもの」を指します。
   簡単にいえば「表現としてアウトプットされたもの」であり、共有サイトに投稿される動画も「著作物」とされます。
   そして、著作物は保護されているため、著作権者に無断で使用することは許されません。
   
   切り抜き動画はオリジナルの動画をもとに再編したものであるため、「オリジナルの動画とは異なる内容の、別の著作物だ」と考える方もおられるかもしれません。
   しかし、著作権のなかには、著作物を無断でアレンジして別の著作物を作ることを禁じる「翻案権（ほんあんけん）」や、無断でインターネットなどに配信することを禁じる「公衆送信権」も含まれています。
   無断で切り抜き動画を作成して投稿することは、権利者の翻案権や公衆送信権を侵害するという点で、著作権法違反になるのです。

以下では、他人の著作権を侵害してしまったときに発生する問題について解説します

1. （1）著作権法違反に問われる

   著作権侵害は、犯罪です。
   著作権法第119条1項には、著作権を侵害する行為をした者に対して10年以下の懲役もしくは1000万円以下の罰金、またはこれらの両方を科すことが定められています。
   
   懲役の上限は重く、さらに高額の罰金が定められているという点で、著作権侵害は重罪だといえます。

2. （2）損害賠償を請求される

   著作権法違反に対して科せられる懲役や罰金は「刑事罰」です。
   刑事罰を受けて罪を償ったとしても、著作権を侵害したことで損害を被った著作権者への「民事」面での責任は消えません。
   
   著作権侵害を受けた著作権者からは、投稿した動画の公開停止を求める差止請求を受けたうえで、被った損害に対する賠償請求、また不当に得た利益の返還請求などが行われる可能性があります。
   動画投稿による収益が大きくなれば大きくなるほど、請求される損害賠償の金額も大きくなるため、「切り抜き動画の投稿によって得た収益が手元からなくなってしまった」という事態も覚悟しておきましょう。

無許可の切り抜き動画が著作権法違反という犯罪になるとしても、実際の動画投稿サイトに目を向けてみると、多くの切り抜き動画が公開されているという実情があります。
切り抜き動画がオリジナルの権利者から許諾されている場合もあるほか、切り抜き動画が人気を集めることでオリジナルの動画への注目も高まるという理由から、黙認されている事例も多いようです。

しかし、黙認されている切り抜き動画が多いからといって、自分が投稿したときにも同じように権利者から黙認してもらえるとは限りません。
とくに、以下で挙げるようなケースでは、著作権法違反の容疑に問われる可能性は高いといえるでしょう。

1. （1）映画やアニメなどを切り抜いた

   映画やアニメなどの映像作品は、配給会社・制作会社・放送局などの権利関係が複雑に絡み合っています。
   有償で公開されているもの、さまざまなメディアに展開して大きな収益を生むものも多いため、切り抜き動画が投稿された場合の損害額も多大なものとなります。
   
   損害額が大きくなれば、権利者は民事だけでなく刑事的な面でも責任を追及する可能性が高くなるため、捜査機関に刑事告訴されるリスクも増すことになります。

2. （2）人気配信者の動画を切り抜いた

   人気が高い配信者の動画には、配信者が個人で投稿しているのではなく、配信者が法人を立ち上げて配信しているものや、制作会社に任せて配信しているものも少なくありません。
   
   注目されやすい配信者の切り抜き動画は人気を集めやすい一方で、配信者側の法人や制作会社にも存在を認知されやすくなるので、切り抜き動画への視聴者の流出を防ぐために刑事責任を追及されるリスクが増すのです。

3. （3）オリジナルの動画に対して攻撃的な内容だった

   切り抜き動画の内容が、テロップやコメントなどでオリジナルの動画を強く批判していたり、わざと視聴者の誤解を招く内容だったりするといった攻撃的なものであった場合には、著作権者の悪感情を招いて対処される可能性が高くなります。
   
   著作権法違反だけでなく、刑法における名誉毀損罪や信用毀損罪などにも問われる内容であった場合は、著作権者から刑事告訴されるリスクも増すでしょう。

すでに無許可で切り抜き動画を投稿してしまった方は、著作権違反に問われて刑罰を受けたり民事訴訟で損害賠償を請求されたりすることを避けるために、できるだけ早く対応を開始しましょう。

1. （1）ライセンス契約に向けて権利者と交渉する

   切り抜き動画を無許可で投稿する行為は違法ですが、著作権者から許諾を受ければ、法的な条件をクリアすることができます、
   著作権者とのライセンス契約に向けて交渉して、条件を整えてお互いが合意すれば、その後は切り抜き動画を投稿しても違法にはなりません。
   
   ただし、ライセンス契約を結ぶ際は許諾料やライセンス料を支払うことになります。
   とくに映画やアニメ、人気配信者などのライセンス契約は高額の支払いが発生するか、あるいはそもそもライセンス不可のものも多いため、他の方法が必要になる場合も多々あります。

2. （2）投稿した動画を削除する

   著作権侵害について責任を追及されるのを回避したいなら、一刻も早く違法状態を解消することが大切です。
   切り抜き動画を公開したままにしておかず、すぐに非公開にしたり、削除したりしたほうがよいでしょう。
   とくに、すでに著作権者から指摘を受けている状況であれば、放置していると刑事告訴や民事訴訟をされる可能性が高くなるため、ただちに削除してください。
   
   ただし、削除しても「他人の著作権を侵害した」という事実に変わりはありません。
   著作権者から刑事告訴されたり、不当利得返還請求や損害賠償請求の訴訟を起こされたりする危険がなくなるわけではないので、「削除したから事態はもう解決した」と安易に判断することは禁物です。

3. （3）弁護士に相談してアドバイスを受ける

   切り抜き動画を投稿したことで法的なトラブルに発展する危険があると感じたら、できるだけ早く、弁護士に相談してください。
   
   著作権をはじめとした知的財産権に関するトラブルは法律の解釈が複雑となり、実際に著作権侵害にあたるのかどうかも個人では判断が難しい面があります。
   しかし、知的財産権に関する知識や経験を豊富にもつ弁護士に相談すれば、著作権侵害にあたるか否か、法的な責任を問われる可能性があるかどうかといった点について、正確な見通しを得ることができます。
   
   また、刑事事件に発展する可能性が高かったり、高額の賠償を求められていたりする状況では、弁護士によるサポートは不可欠です。
   経験豊富な弁護士が著作権者と交渉して、刑事告訴の見送りや取り消し、賠償の減額などを含めた示談交渉を進めることで、逮捕や刑罰といった処分をされたり高額な賠償金を請求されたりする事態を回避しやすくなるでしょう。

「切り抜き動画」は、オリジナルの動画の著作権を侵害する存在です。
無許可で切り抜き動画を投稿すれば、著作権法違反としての刑事告訴や高額の損害賠償請求などを受けるおそれがあるため、事前にライセンス契約を交わすなど正規の手続きを経ておく必要があります。

たとえ「違法になるとは知らなかった」と主張しても、刑事・民事の両面で厳しく責任を追及される事態に発展する可能性があります。
法律的な問題に発展した場合には、知的財産権に関する知識や経験を豊富にもつ弁護士のサポートが不可欠です。
「切り抜き動画の投稿で責任を追及される事態になってしまった…」「違法になるとは知らずに切り抜き動画を公開してしまったが、今後のトラブルを避けたい」といったお悩みを抱かれている方は、まずはベリーベスト法律事務所にご連絡ください。