相続と連帯保証人の法的リスクとは? 負債相続を避けるための調査方法
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令和2年に公表された日本弁護士連合会の調査によると、自己破産をした人のうち、他人の借金を肩代わりしたことが破産の原因になったのは、全事件の2.82%でした。大阪府内の地方裁判所では、ここ数年、年間7000件前後の破産事件が受理されており、一定数の方が他人の借金のために自己破産をしたと考えられます。
借金などをする際に「連帯保証人」を求められることがありますが、連帯保証人の責任は非常に重く、相続人にその責任が引き継がれます。そのため、相続手続では、亡くなった方が連帯保証人になっていないかについて、注意深く確認する必要があります。
今回のコラムでは、被相続人(亡くなった方)が連帯保証をしていた際の法的リスク、調査方法、連帯保証債務の相続を回避する相続手続について、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
1、相続と連帯保証人の法的リスクとは
被相続人が連帯保証人だった場合、相続をすると連帯保証人の義務を引き継ぐことになります。連帯保証人とはどのような責任を負うのか、解説します。
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(1)相続で連帯保証人の地位はどのように引き継がれる?
相続が発生すると、被相続人の財産に属する一切の権利義務を相続人が引き継ぐことになります。そのため、被相続人の借金や連帯保証人などのマイナスの財産も、法定相続分に応じて相続人に引き継がれます。
この時、預貯金などプラスの財産は、相続人の話し合いで誰がどれだけ取得するのか自由に決めることができますが、借金や連帯保証人の責任は、相続人サイドで変更することはできません。
もし特定の相続人だけが連帯保証人の地位を引き継ぎたい場合は、債権者と交渉して連帯保証契約をやり直すほかありません。 -
(2)連帯保証人はどのような責任を負う?
連帯保証人は、借主(主債務者)と同等の立場で返済の義務を負うことになります。
連帯保証人としては、「先に主債務者に請求して財産を差し押さえてほしい」、「他の保証人にも請求してほしい」と思う方もいるかもしれません。しかし、そのような主張は通らず、同等の義務を負うのが「連帯」保証の意味ともいえます。
このような連帯保証人の重い責任を踏まえ、近年の法改正で、以下の次のような規制が追加されました。- 保証契約は書面(または電磁的記録)で行う必要がある
- 債権者は保証人の請求があれば、債務の残額や履行の状況を開示する必要がある
- 事業資金の融資を受ける際に、事業に関係のない個人が保証人になる場合は、公正証書を作成する必要がある
しかし、連帯保証人が重い責任を負わされる状況は変わっていないといえるでしょう。
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(3)保証契約の種類と相続の有無
保証人には、大きく分けて、連帯保証のような人的保証のほかに、物上保証や身元保証、根保証という形態もあります。
これらの保証人が亡くなった場合に、相続ではどのように扱われるのか解説します。
① 根保証
根保証とは、将来発生する不特定の債務を保証する形態です。たとえば、継続的な貸金や売買などの取引による債務や、賃貸借契約により生じる賃料や原状回復費用などを保証する際に用いられます。
個人が根保証をする場合は、保証人の責任を限定するために次のような規制が設けられました。- 契約で保証人が責任を負う極度額を定める必要がある
- 主債務者または保証人が死亡した場合は、その時点で元本が確定する
つまり、個人が根保証をした場合は、極度額の限度で主債務者に代わって返済義務を負い、保証人が死亡すると、それ以降に生じた債務を返済する義務はなくなります。
② 物上保証
物上保証とは、特定の財産を物的担保として提供するもので、不動産などに設定する抵当権が典型例です。
抵当権が実行されると、対象の不動産などが売却され、その代金で債権の回収が図られますが、それ以上に所有者や相続人が返済義務を負うことはありません。ただし、物上保証をしている場合、所有者が連帯保証もしているケースがあるので、注意が必要です。
③ 身元保証
身元保証は、就職などの際に、本人の行為により生じた損害を賠償する責任を負うことを内容とする契約です。身元保証人としての責任は、時には過大な賠償責任となることから、身元保証人の地位は相続しないというのが判例の立場です。
ただし、被相続人が身元保証をして、その生前に賠償責任として具体的な債務となっている場合は、通常の金銭債務と同様に相続することになります。
2、被相続人が連帯保証人になっていないか調査する方法
被相続人が連帯保証人になっていないか調べるには、以下の方法があげられます。
① 郵便物や契約書などの書類を調べる
個人が連帯保証人になる際は、書面によらなければ無効となる法改正が平成17年4月にスタートしています。また、それ以前の契約でも、連帯保証人になる際は契約書が作成されているケースがほとんどです。
主債務者に代わって返済したことがあれば、請求書や領収証などが残っている可能性もあるので、これらの書類が手掛かりになることもあります。
② 信用情報機関に照会する
信用情報機関とは、国内で営業する銀行や貸金業者、クレジット会社が加盟する機関で、株式会社日本信用情報機構(JICC)、株式会社シー・アイ・シー(CIC)、全国銀行個人信用情報センター(KSC)の3つがあります。
これらの機関では、銀行や貸金業者などと顧客との間の契約情報や取引履歴などの情報を共有していますが、相続人は、被相続人の情報開示請求をすることも可能です。情報開示請求により、被相続人が銀行や貸金業者などと連帯保証契約を締結していたことが判明することがあります。
③ パソコンやスマートフォンを調べる
主債務者から返済金の立て替え依頼がメールやSNSで送られている可能性もあります。
また、通信内容を見て、親しかった知人や事業の関係者に直接尋ねてみるのも方法のひとつです。契約書がPDFファイルなどで保存されている可能性もあるので、ファイル類もよく確認しましょう。
④ 預貯金の入出金や振り込みの履歴を調べる
使途がよく分からない振り込みの履歴がある場合は、債権者や主債務者への送金の可能性があります。
3、連帯保証債務の相続を避ける方法|相続放棄の判断基準
被相続人が連帯保証していることが判明した場合、連帯保証のリスクを含んで相続するか、相続放棄をして連帯保証の責任を免れるか、ふたつの選択肢があります。
相続放棄をするかの判断基準や相続放棄の手続について解説します。
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(1)相続放棄の判断基準
相続放棄をするか判断するには、まず、相続により得られるメリットと連帯保証債務を履行することになった場合のデメリットを比較しましょう。また、主債務者の返済能力も重要な判断要素となります。
保証人は、債権者に対して債務の残額や履行状況を開示請求することができますが、債権者と不用意に交渉すると、連帯保証人の地位を引き継ぐことを承認したと受け取られる可能性があるので、注意が必要です。
相続放棄の判断は難しく、情報収集も慎重に行う必要があるため、弁護士などのサポートを受けることをおすすめします。なお、被相続人の事業を特定の相続人が承継する場合は、他の相続人が相続放棄をして、事業を引き継ぐ相続人に資産や連帯保証の責任を集中させることも考えられます。 -
(2)相続放棄の手続
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになるので、財産や債務を受け継ぐことはありません。
相続放棄をする場合、通常は被相続人が亡くなった日から3か月以内(熟慮期間)に家庭裁判所で相続放棄申述の手続を行います。
ただし、熟慮期間中に相続放棄の判断がつかない場合、家庭裁判所に熟慮期間の伸長を申し立てることもできます。この場合、相続財産を調査するために時間が必要など、相当な理由がある場合に限り認められます。 -
(3)3か月経過後も相続放棄できる場合もある
3か月の熟慮期間が経過した後で、債権者からの請求で被相続人が連帯保証人であったことが判明するケースも少なくありません。
そのようなケースでも、相続放棄が認められた事例がありますが、ポイントとなるのは以下の2点です。- 被相続人に相続財産がまったくないと信じていた
- 相続財産の調査をしなかったことに相当の理由があった
これらの基準をもとに、個別の事案ごとに相続放棄についての判断がされることになります。
仮に家庭裁判所で相続放棄が認められたとしても、その有効性が民事裁判で争われるケースもあるので、相続財産の調査を注意深く行うに越したことはありません。 -
(4)相続放棄の注意点
相続放棄をする場合の注意点は、以下のとおりです。
① 財産を処分すると相続放棄できない場合がある
相続放棄をすると、はじめから相続人ではなかったことになりますが、これに反する行為をすると、相続を承認(単純承認)したことになり、相続放棄ができなくなることがあります。
典型的な例としては、被相続人の預貯金を引き出して生活費として使うように、相続財産を処分する行為があげられます。また、債権者に対して連帯保証人としての債務があることを認める行為も単純承認に該当するという考え方もあります。
相続放棄をした後でも、単純承認に該当する行為をすると、相続人として扱われることになるので注意が必要です。
② 後順位の親族が相続人になる
相続人となるのは、配偶者と次の順位により決まる親族です。- 第1順位 子
- 第2順位 直系尊属(親や祖父母など)
- 第3順位 兄弟姉妹
親族全員が相続を拒否する場合は、配偶者とともに、上記の親族が順次相続放棄をする必要があります。
4、連帯保証人を相続した場合は|弁護士へ相談を
被相続人の連帯保証債務を相続してしまった場合や、相続手続をスムーズに進めたい場合は、いずれも弁護士のサポートを受けることをおすすめします。
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(1)連帯保証債務を相続した場合の対処法
連帯保証債務は、自ら借金しているのと同様の責任を負うため、返済が難しい場合は、任意整理や個人再生、自己破産などの債務整理により解決するほかありません。債務整理や連帯保証人トラブルは、実績のある弁護士に相談し、適した解決方法とアドバイスをもらうのが得策といえます。
なお、連帯保証人が肩代わりして返済した連帯保証債務は、主債務者に請求して償還してもらうことができます。この請求を求償請求といいます。また、主債務者の依頼により連帯保証人になった場合、一定の条件を満たせば、返済を肩代わりする前に、主債務者に対して求償請求(事前求償)することもできます。
しかし、求償請求をしても、主債務者に返済能力がないことがほとんどです。少しでも回収したい場合は、主債務者に対して求償請求の訴訟を起こすことも選択肢になります。 -
(2)スムーズな相続手続と弁護士のサポート
今回の記事では、被相続人が連帯保証人になっていたケースを想定して解説しましたが、相続手続には、遺産分割における親族間の対立など、想定外のトラブルが起こることも十分にあり得ます。
相続で問題が起きると、感情的な対立に発展して、トラブルが長期化することも珍しくありません。弁護士は、相続に関する知識と実績をもとに、さまざまなリスクを想定して手続をスムーズに進めるためのサポートをいたします。
5、まとめ
連帯保証人になると、自分の借金と同じように返済の義務を負います。相続人にもその地位が引き継がれてしまうため、相続手続の初動では、まず連帯保証債務の有無についての調査が重要です。
連帯保証債務があった場合は相続放棄も選択肢となりますが、相続のメリットとリスクの程度を検討することになり、難しい判断になることもあります。また、相続放棄ができる期間を経過した後に連帯保証債務が見つかった場合も、適切な対処が必要になります。
被相続人が連帯保証人になっていた可能性がある場合、より慎重に相続手続を進める必要があるので、できるだけ早期に弁護士のサポートを受けることをご検討ください。
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