前妻の子に相続時に連絡しないと、どうなる?
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大阪市が公表している人口動態に関する統計資料によると、令和2年の大阪市の死亡者数は、2万9598人であり、前年よりも167人増加しています。人の死亡によって相続が始まるので、毎年多くの相続事案が発生していることがわかります。
離婚や再婚をしている場合、相続が開始した際の相続関係が複雑になるケースがあります。特に、前妻との間に子どもがいる場合には、その子どもと遺産分割協議を進めなければならないため、トラブルが起きる可能性があります。
また、できれば前妻の子どもには連絡せずに、相続手続きを進めたいと考える方もいるかもしれません。実際に、そのようなことは可能なのでしょうか。
今回は、前妻の子に相続権はあるのか、そして、相続を開始した場合に前妻の子どもに連絡をしないとどうなるのかなどについて、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
1、前妻の子に相続権はある?
前妻の子は、相続においてどのように扱われるのでしょうか。まずは、相続の基本的な考え方について説明します。
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(1)相続人の範囲
被相続人(亡くなった方)の遺産は、相続人が相続することになります。
民法では、相続が発生した場合における相続人の範囲を明確に定めているため、誰が相続人になるかは民法の規定に従って判断していきます。
民法で規定している、相続人の範囲は以下のとおりです。- 配偶者(常に相続人になる)
- 子ども(第1順位の相続人)
- 両親(第2順位の相続人)
- 兄弟姉妹(第3順位の相続人)
被相続人の配偶者については、他に相続人がいたとしても、常に相続人になることができます。
また、配偶者以外の相続人については、先順位の相続人がいない場合に限り、相続人になることが可能です。 -
(2)前妻の子も法定相続人に含まれる
被相続人に離婚歴があり、前妻との間に子どもがいる場合には、その子どもは第1順位の相続人として、遺産を相続する権利を有します。
離婚した際に、子どもの親権を得られなかったとしても、法定相続人であることには変わりありません。
再婚した妻との間に子どもがいる場合は、前妻の子と同順位の相続人になるので、等しい割合で遺産を分けます。
この場合も同様に、前妻の子か、後妻の子かによって法定相続分が区別されることはありません。
なお、すでに離婚をしている前妻については、法定相続人である「配偶者」には該当しないため、被相続人の遺産の相続権はありません。
2、住所がわからない前妻の子には、相続時に連絡しなくてもいい?
前妻との間に子どもがいたとしても、再婚して築いた家族が、その連絡先を知らないということは珍しくありません。
このような場合には、前妻の子に連絡しないまま、相続手続きを進めてもよいのでしょうか。
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(1)遺産分割協議の成立には相続人全員の合意が必要
遺言書がない場合、被相続人の遺産を分けるためには、相続人による遺産分割協議が必要になります。
遺産分割協議では、誰がどのように遺産を取得するのかを、具体的に話し合います。
遺産分割協議を成立させるためには、遺産分割方法などについて相続人全員が合意をしていることが必要です。
そのため、前妻の子も遺産分割協議に参加して、合意を得ることが必須になります。
したがって、住所がわからないという理由で、前妻の子に連絡をしないということは認められません。
有効に遺産分割協議を成立させるためにも、前妻の子に連絡をして、遺産分割協議に参加してもらうようにしましょう。 -
(2)遺言書がある場合
生前に遺言書が作成されていた場合は、遺言書の内容が優先することになるので、後妻と前妻の子との間で遺産分割協議をする必要はありません。遺産分割協議への参加依頼の連絡を取る必要もなくなります。
ただし、相続人である子どもには、「遺留分」という一定割合の相続が保障されています。
そのため、遺留分を侵害するような内容だった場合には、遺留分侵害額請求を受けてしまう可能性があります。
遺言の内容をしっかりと精査したうえで対応することが必要です。 -
(3)住所がわからない場合の連絡方法
前妻の子と面識がなく、住所も連絡先もわからないというケースでは、戸籍の附票を取得するという方法を採ります。
戸籍の附票とは、その戸籍が作られてから現在に至るまでの住所が記録された書類であり、本籍地の市区町村役場において取得できるものです。
前妻との間に子どもがいる場合には、過去の戸籍にそのことが記載されているので、子どもの戸籍謄本を取得することが可能です。
そして、戸籍謄本によって本籍地がわかれば、戸籍の附票を取得することができ、それによって前妻の子の住所を把握することができます。
前妻の子の住所がわかった場合には、その住所宛てに、被相続人が死亡したこと、遺産分割協議に参加してもらいたい旨を記載した手紙を送るとよいでしょう。
なお、「住所を知りたいのであれば、住民票を取得すればよいのでは?」と考えるかもしれませんが、住民票は相手の住所がわからなければ請求することはできません。
3、もめそうだから、前妻の子には連絡しない。これはOK?
面識のない前妻の子と遺産分割協議をすると、もめる可能性もあります。
また、そもそも会いたくない、という気持ちを抱くこともあるでしょう。
では、前妻の子に連絡をしないで、相続を進めるのは認められるのでしょうか。
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(1)「もめそうだから」という理由はNG
前述したように、有効に遺産分割協議を成立させるには、相続人全員の合意が必要になります。
前妻の子に連絡したことにより、もめるかもしれないなどの理由で、前妻の子に連絡をせず、遺産分割協議から除外してしまうと、他の相続人全員の合意があったとしても当該遺産分割協議は無効になります。
そのため、前妻の子が相続人に含まれる場合には、必ず連絡をするようにしましょう。 -
(2)当事者同士での話し合いが難しい場合は遺産分割調停を申し立てる
再婚した妻と子どもと、前妻との子どもで遺産分割協議がなされる際は、お互いに面識がないことや感情的なわだかまりなどから、当事者同士でのスムーズな話し合いが難しいという場合もあります。
また、遺産分割協議への参加を求める連絡をしても、協力してくれないということもあるでしょう。
当事者同士の話し合いが難しいという場合には、家庭裁判所に遺産分割調停の申し立てをするのが有効な手段です。
遺産分割調停では、調停委員という第三者が当事者の間に入って、遺産分割に関する話し合いを進めます。
そのため、当事者同士で話し合いをするよりもスムーズに遺産分割の話し合いを進めることが可能になります。
ただし、遺産分割調停においても、当事者全員の合意は必要です。
調停を欠席するなど、協力的でない相続人がいる場合には、遺産分割調停を成立させることはできません。
しかし、遺産分割調停が不成立になった場合には、自動的に遺産分割審判に移行するので、欠席している相続人がいたとしても、法定相続分に従った遺産分割を行うことが可能です。
4、相続手続きは弁護士に相談を
残されたご家族にとって、前妻の子と連絡を取ることや遺産分割のための話し合いをすること自体が大きなストレスになります。
弁護士であれば、代理人として遺産分割協議に参加し、他の相続人と話し合いを進めることができます。
また、法律の専門家である弁護士であれば、最大限有利な内容になるよう、遺産分割の話し合いを進めることが可能です。
相続人の連絡先がわからないという場合は、相続人調査を依頼することもできます。
前妻との間に子どもがいる場合の相続は、関係者に大きな負担がかかるだけではなく、トラブルに発展するおそれもあります。
少しでも不安がある場合には、早めに弁護士に相談をすることをおすすめします。
5、まとめ
前妻の子がいる場合には、相続発生後にトラブルが予想されますので、生前にしっかりと相続対策を講じておくことが大切です。
また、すでに相続が開始しているという場合には、一人で相続手続きを進めることが難しい場合もありますので、早めに弁護士に相談をするようにしましょう。
遺産相続に関してお悩みの方は、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスまでお気軽にご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています