残高証明書とは? 相続のときに必要なケースと取得する方法
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天王寺区役所では、定期的に各種無料相談の窓口が開かれており、司法書士や行政書士に相談することができます。しかし、実際に手続きを代行してくれるわけではないことは知っておくべきでしょう。
相続が開始したのち、適切に遺産分割手続きを行っていくためには、相続財産をしっかりと把握することが重要になります。その際に役に立つのが残高証明書の取得です。なお、残高証明書を取得することによって、遺産分割協議や相続税の申告の際に利用することができるため、相続開始後は早めに取得しておくことをおすすめします。
今回は、相続において残高証明書が必要となるケースや残高証明書を取得する方法について、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
1、相続のシーンで求められる残高証明書とは?
相続のシーンで求められる残高証明書とは、どのような書類なのでしょうか。
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(1)残高証明書とは?
残高証明書とは、銀行などの金融機関が発行する証明書の1つであり、基準日時点における預貯金口座の残高を証明することができる書類です。また、金融機関などから借入金があるような場合にも残高証明書を取得することによって、基準日時点における借入金残高を証明することができます。
残高証明書の基準日は、申請者が自由に決めることができますが、相続の場面においては、相続開始時点の残高が重要となります。したがって、被相続人の死亡日を基準日とした残高証明書を取得してください。 -
(2)残高証明書と取引履歴との違い
金融機関で取得することができる書類には、残高証明書の他に取引履歴という書類もあります。取引履歴とは、対象の預貯金口座に関する過去の入出金の推移が記録された書類です。残高証明書が基準日時点における預貯金口座の残高のみを証明するものであるのに対して、過去の詳しい取引の内容が記載されたものが取引履歴になります。
取引履歴の開示を求めた場合には、過去何年分取得することができるかは、金融機関によって対応はまちまちです。一般的には過去10年分の取引履歴の開示に応じてくれる金融機関が多いと思われます。
過去の取引履歴を調査することによって他の相続人による使い込みが判明する可能性もありますので、残高証明書と一緒に取引履歴も取得しておくとよいでしょう。
2、通帳だけではNG? 残高証明書が必要なケース
残高証明書は、相続手続きにおいて必ず必要となるものではありませんが、以下のようなケースでは、残高証明書を取得しておいた方がよいといえます。
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(1)相続税の申告
相続財産が相続税法によって定められている基礎控除額(3000万円+600万円×法定相続人の数)を超える場合には、税務署に相続税の申告をしなければなりません。
残高証明書は、相続税申告の際の添付資料として必須とされているものではありませんが、相続税申告の実務上は、相続税の計算資料として、税務署に提出をする申告書の資料として添付するのが一般的です。残高証明書が相続税の申告の際の添付資料として求められるのには、以下のような理由があります。① 相続財産の正確な把握ができる
残高証明書を取得することによって、当該金融機関と被相続人との間のすべての取引の残高が記載されることになります。そのため、預貯金だけでなく借入金や投資信託など相続人が把握していなかったものについても明らかになることがあるでしょう。
② 不要な問い合わせや調査を避けることができる
相続税の申告資料として残高証明書を添付することによって、税務署としても課税対象となる預貯金残高を正確に把握することが可能です。したがって、税務署からの問い合わせや調査を回避できる可能性を高められます。 -
(2)遺産分割協議
遺産分割協議は、被相続人の相続財産を対象として、相続人全員でその分割方法を話し合うものです。そのため、話し合いを進める大前提として、正確な相続財産を把握することが重要となります。
万が一相続財産に漏れがあった場合には、漏れた財産を対象として遺産分割協議を再度行わなければならなくなる可能性が出てきます。さらに、漏れのある遺産が重要なものである場合には、遺産分割協議のやり直しが必要になりうるのです。
金融機関から残高証明書を取得することができれば、当該金融機関に対して被相続人が有する預貯金や借入金といった財産を正確に把握することができます。残高証明書があることで、相続財産をめぐる相続人同士のトラブルを回避することに役立つといえるでしょう。
3、残高証明書を発行するための手続き
残高証明書を取得するためには、以下のような手続きを行う必要があります。
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(1)申請先
残高証明書を取得するには、各金融機関の窓口で申請手続きを行います。同じ金融機関の複数の支店に預貯金口座を保有しているという場合であっても、1つの支店で申請手続きをするだけですべての支店の残高証明書を取得することができるのが一般的です。
ただし、被相続人の口座とは異なる支店で申請手続きをした場合には、残高証明書の取得まで時間がかかることがありますので注意が必要です。 -
(2)請求することができる人
残高証明書を取得することができるのは、被相続人の相続人です。
残高証明書を取得するのは、相続人単独でできますので、他の相続人の同意などは必要ありません。相続人ご自身で残高証明書の取得申請をすることが難しい場合には、代理人に依頼をして残高証明書を取得することができます。その際には、金融機関所定の委任状が必要になることもありますので、あらかじめ確認をしておくとよいでしょう。 -
(3)請求に必要な書類
残高証明書の取得に必要な書類としては、一般的には、以下のものが挙げられます。
- ① 被相続人の戸籍謄本または除籍謄本(死亡したことがわかるもの)
- ② 申請者が相続人であることがわかる戸籍謄本、改正原戸籍謄本、除籍謄本
- ③ 申請者の印鑑証明書
- ④ 実印
- ⑤ 申請者の本人確認書類(運転免許証など)
- ⑥ 残高証明書発行依頼書(各金融機関所定の様式)
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(4)手数料
残高証明書の発行にあたっては、金融機関所定の手数料がかかります。手数料の金額は、金融機関によって異なりますが、1通あたり1000円程度です。
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(5)申請から発行までの流れ
残高証明書を取得する場合には、必要書類を持参の上、金融機関の窓口で残高証明書の取得申請を行います。必要書類に漏れがあった場合には、再度、金融機関の窓口に行かなければならないなどの二度手間になってしまいますので、あらかじめ電話などで確認をすることをおすすめします。
残高証明書は、取得申請をしてから約1週間前後で発行されますが、金融機関によっては、即日残高証明書を発行してくれるところもあります。発行まである程度時間がかかることを前提に、早めに残高証明書を取得するようにしましょう。
4、残高証明書を発行する際の注意事項
残高証明書を発行してもらう場合には、以下の点に注意が必要です。
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(1)証明が必要なのは被相続人が亡くなった日の残高
残高証明書の申請を行う際には、どの時点の残高証明書を取得するのかを記入する部分があります。相続において必要となるのは、相続開始時点の残高ですので、被相続人が死亡した日を記入するようにしてください。
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(2)残高証明書の取得によって口座が凍結される可能性がある
残高証明書は、通常は口座名義人本人が申請するものですので、本人以外が請求する場合には、申請する正当な権利があることを示さなければなりません。相続を理由として残高証明書の申請をする場合には、戸籍謄本などの提出によって、口座名義人本人の死亡が金融機関に知られることになります。
口座名義人本人の死亡を金融機関が知った場合には、当該口座はすべて凍結されてしまいますので、それ以降は入出金をすることができなくなるのが通常です。 -
(3)他にも口座がないかも一緒に調べる
相続人が被相続人の相続財産のすべてを把握していることはほとんどありません。そのため、残高証明書を取得する場合には、相続人が把握している預貯金口座の残高証明書だけでなく、当該金融機関に対して被相続人が有している預貯金、借入金、投資信託といったすべての取引に関する残高証明書を申請するようにしましょう。
これによって、相続人が把握していなかった財産が明らかになることがあります。 -
(4)定期預金の既経過利息も計算してもらう
被相続人が定期預金を有している場合には、定期預金の既経過利息も含めて残高を証明してもらうようにしましょう。既経過利息とは、被相続人の死亡日までの間に発生した利息のことをいいます。
既経過利息は、相続税申告時の課税価格に含める必要があり、既経過利息の金額によっては相続税の金額が大きく異なってくる可能性もありますので注意が必要です。
5、まとめ
金融機関が発行する残高証明書は、円滑な遺産分割や相続税の申告を行うために必要な書類となります。相続が開始した場合には、早めに取得するようにしましょう。残高証明書によって被相続人の預貯金や借入金などが明らかになります。
ただし、預貯金以外にも不動産や有価証券を所有していたり、債務を負担していたりすることもあります。正確に相続財産調査を行い、トラブルを回避しながら相続手続きを行うためにも、相続手続きについては、弁護士に依頼をして行うことをおすすめします。相続手続きでお困りの方は、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスにお任せください。
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