飼い主の死後、ペットの生活・安全を確保するための対策を解説
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厚生労働省が公表するデータによると、令和4年に大阪府に登録されている犬の登録頭数は39万4453頭でした。天王寺や阿倍野エリアにお住まいの方でも、ペットを大切な家族として一緒に暮らしている方は少なくないでしょう。
犬・猫などのペットを愛好する方は、ご自身が亡くなった場合を考えると、ペットが路頭に迷ってしまうのではないかと不安になってしまうかと思います。しかし、生前に適切な対策を行うことにより、ご自身の死後におけるペットの生活・安全を確保することが可能です。
この記事では、飼い主が亡くなった後に、ペットの生活や安全を確保するための対策について、ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスの弁護士が解説します。
1、ペットに遺産を与えることはできる?
ペットを愛好する方の中には、ペット自身に財産を残してあげたいと考える方もいらっしゃいます。
「身寄りがないので、遺産を使ってペットの生活が保障されるようにしたい」という考えから、ペットに遺産を与えることに思い至ることもあるでしょう。
しかし、法律のルールに従うと、ペットに対して遺産を与えることはできません。
法律上、権利を享有できるのは「人」(自然人、法人)のみであるところ、ペット(=動物)は「物」であると解されているからです。
ペットを愛好する方にとっては、「ペット=物」という考え方が腑に落ちない場合もあるでしょうが、遺産相続に関しては法律のルールに従わなければならないので、やむを得ません。
ご自身の死後、ペットの生活を保障したい場合には、ペットに遺産を与える以外の方法を検討しましょう。
2、ケース別|飼い主の死後のペットについて考えるべきこと
飼い主の死後、ペットの世話がきちんと行われるようにするため、住環境を確保するためには、「適切な生前対策」を実施すべきです。
その際、技術的にどのような方法を選択するか以前に、飼い主の方が置かれている状況に応じて考えるべきことがあります。
以下では、頼れる親族の有無や相続人の有無に応じて、状況別の考え方を解説します。
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(1)頼れる親族がいる場合
ご自身にとって頼れる親族がいる場合、基本的にはその親族にペットの世話を任せるのがよいでしょう。
ただし、「生前の信頼関係」だけを根拠にペットの世話を任せるのは、確実性の観点から望ましくありません。たとえば相手の経済面その他の事情が変われば、ペットの世話を放棄してしまうような事態も考えられるからです。
頼れると思っている親族であっても、ペットの世話が確実に行われるようにするためには、他の親族を巻き込む形で、法的にペットの世話を義務付けられるような仕組みを整えることが大切です。
後述する法的な仕組みを活用して、ペットの生活が保障されるようなアレンジを行ってください。 -
(2)頼れる親族も相続人もいない場合
ペットの世話を任せられるような頼れる親族がおらず、相続人もいない場合には、まずは純粋にペットの世話をしてくれそうな親切な人を探すことが先決です。
信頼できる人が見つかったら、後述する法的な仕組みを活用して、その人が確実にペットの世話をしてくれるような態勢を整えましょう。
なお、親族以外からペットの世話をしてくれる人を指名する場合、ペットの引渡し方法についてあらかじめ段取りをする必要があります。
被相続人との間で親族関係がない場合、その人が被相続人の居室(=ペットがいる場所)に立ち入れない可能性があるからです。たとえば、住居の大家に事前に話を通しておくなどして、ペットをスムーズに引き取ってもらえる状態を整えておきましょう。 -
(3)頼れる親族がいないが、相続人はいる場合
ペットの世話を任せてもよいと思える親族はいないものの、相続人に当たる親族はいるという場合には、誰にペットを任せるかは悩ましい問題になります。
遺産相続において優遇することを条件に、相続人にペットの世話をさせるという選択肢も考えられますが、きちんと愛情を注いでくれるとは限りません。これに対して、相続人以外からペットの世話を任せる人を選ぶ場合には、相続人との調整が問題になり得ます。
誰にペットを任せるかについては、ケースバイケースの判断にならざるを得ないため、明確な答えはありません。
弁護士とともに、法律と実態の両面から慎重に検討を行い、最良の選択を心がけましょう。
3、ペットの生活を保障するためにできる生前対策
ご自身の死後に備えて、ペットの生活を保障するために考えられる法的な生前対策の方法について解説します。
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(1)負担付遺贈
「遺贈」とは、遺言によって行われる贈与を意味します。
その中でも「負担付遺贈」(民法第1002条)は、遺贈を受ける人(受遺者)に何らかの義務の負担を課すものであるという特徴があります。たとえば、ペットの世話をすることを条件として、金銭などの遺産を譲り渡すことが負担付遺贈に当たります。
負担付遺贈を活用すれば、受遺者に対して、ペットの世話を法的に義務付けることができます。
ただし、負担付遺贈は「遺贈の目的の価額を超えない限度においてのみ」義務が発生するとされているため(同条第1項)、ペットの世話に必要となる見込み費用よりも大きな金額の遺贈をする必要があります。
また、負担付遺贈は放棄することもできるため(民法第986条第1項)、確実にペットの世話が行われるわけではないことに注意が必要です。 -
(2)負担付死因贈与
負担付死因贈与は、負担付遺贈と同様に、贈与を受ける人(受贈者)が何らかの義務を負うことを条件として、金銭などの財産を譲り渡す行為です。
ただし、負担付遺贈が遺言による「単独行為」であるのに対して、負担付死因贈与は贈与者と受贈者の間の「契約」であるという違いがあります。
負担付死因贈与は「契約」なので、受贈者側の同意が必要です。
その反面、負担付遺贈とは異なり、受贈者側の一方的な判断で契約が解除されることは基本的にありません。
よって、法律行為としての安定性の観点からは、負担付死因贈与契約書をあらかじめ作成しておくことが有効となる可能性は高いでしょう。 -
(3)ペット信託
最近注目されている「信託」の仕組みを利用して、ペットの世話を受託者に任せることも考えられます。
「信託」のスキームでは、「委託者」から財産の信託譲渡を受けた「受託者」が、「受益者」のために信託財産の管理・運用・処分を行います。
ペット信託の場合、飼い主が委託者兼当初受益者として、ペット自体とペットの飼育費用などを、受託者となる人(飼い主の死後、ペットの世話をする人)に信託譲渡します。
受託者は、信託契約に基づいてペットの世話をする義務を負いますので、他の対策手法と同様、法的な観点からペットの生活保障を図ることが可能です。
さらに、ペット信託を利用する場合、信託監督人を選任することにより、受託者によるペットの世話がきちんと行われているかどうかを監督する仕組みを備えられるメリットもあります。
ペット信託は、負担付遺贈や負担付死因贈与に比べて、柔軟で活用可能性が幅広い仕組みなので、積極的に活用を検討しましょう。
4、ペットが関係する相続の注意点
飼い主が、ペットの生活保障を目的とした生前対策を行う場合には、ペットの世話がきちんと法的に義務付けられているかをよく確認する必要があります。
そのためには、前述の各方法を状況に合わせて用いることに加えて、ルールの内容をどのように設計するかにも十分に気を配らなければなりません。
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(1)必要な世話の内容を書面上に明確化
負担付遺贈・負担付死因贈与・ペット信託のいずれの方法を活用する場合でも、「ペットの世話をする人がどのような義務を負うか」について、書面に詳しく書き込むことが大切です。
たとえば、以下のような内容が検討できます。- 世話をすべき期間
- 世話に必要な費用
- 世話をするために必要な具体的行動(スケジュール)
- 他の人に世話を任せる際のルール
実際にペットの世話が行われる場面を想像しながら、必要な事項を網羅的かつ明確に規定しておきましょう。
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(2)万全を期すためには弁護士に相談を
飼い主の死後におけるペットの生活保障を図るためには、実際の状況を想定したうえで、どのようなリスクがあるかを十分に検討することが大切です。
しかし、飼い主の方がまだ生きている状態で、死後についてご自身だけで想像を巡らせることには限界があります。弁護士に相談すれば、ご親族の状況などをお伺いしながら、飼い主の方とともにリスク分析を行い、ペットの生活保障に対する障害を取り除くサポートを行えます。
また、負担付遺贈・負担付死因贈与・ペット信託などの生前対策を適法に実施するためには、弁護士による法的サポートを受けるのがスムーズでしょう。ご自身の死後、ペットがきちんと生活していけるような遺言書を残したい方はご検討いただくとよいでしょう。
5、まとめ
ご自身が亡くなった後、ペットである動物たちの生活を確保するためには、適切な生前対策を実施することが肝要です。身寄りがない方でも、実施可能な生前対策はありますので、さまざまなサービスを検討すべきです。
ベリーベスト法律事務所 天王寺オフィスには、遺産相続問題に対応した知見がある弁護士が所属しています、残されたご家族同士でトラブルにならないような遺言書作成をサポートしつつ、ペットの処遇についてのご不安を解消できるよう、弁護士が最適な解決策をご提案します。また、その他遺産相続全般に関するご相談についても、一括してご相談ください。
- この記事は公開日時点の法律をもとに執筆しています
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